電力中央研究所

一覧に戻る

電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(251)
2050年カーボンニュートラルで地域グリッドはどう変わるか?

日本政府は、2050年カーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言した。電力業界でも様々な取り組みが始められており、その一つとして、地域グリッドに大量の再エネを導入するために、系統側および需要側双方の技術開発が進められている。今回は、地域グリッドにおけるCN実現に向けた技術的課題、CNを実現するための将来像、将来像実現のための技術開発状況について説明する。

地域グリッドにおける再エネ電源としては太陽光発電(PV)が中心であり、設置されるエリアとしては、戸建住宅の屋根設置が主となる住宅地域だけではなく、野立て設置が主となる遊休地や農山村地域が想定される。これらの地域は、変電所から比較的遠く、農山村地域は需要が少ないエリアであるため、PV発電設備等で発電し、そのエリアで消費できない電力(余剰電力)を、蓄電、もしくは遠隔の需要エリアに送電するという選択になるがどう対処すべきだろうか?

CN実現に向けた技術的課題

このような状況では様々な問題が生じることが想定される。まず、地域グリッドの系統運用面では、電力系統全体の運用目的と地域グリッドの運用目的が異なるため、系統混雑が発生する可能性があり、双方が協調する必要があるが可能なのかという点。続いて、系統構成面では、大量の余剰分を蓄電するための多くの蓄電池、または送電するための地域グリッドの大規模な増強が必要になり、どちらも多大なコストがかかる点。さらに、変電所まで送電するときの損失も無視できない量になるという点である。私の試算では、発電電力量の10%弱が損失として失われる結果となった。また、電力品質の維持も難しくなる可能性があり、電圧変動の拡大、高調波レベルの増大、およびフリッカの発生などが想定され、安定した電力供給が可能か不透明な点がある。最後に、最も重要な保安面では、地域グリッド内で事故が発生した場合、一部のエリアが切り離され、再エネ電源のみで電力供給してしまう点である。これは、一見問題ないように思われるが、電圧と周波数を維持できる能力を持っていない再エネ電源からの供給のみとなると、異常な電圧や周波数となり、家電機器等が故障する可能性がある。

CNを実現するための将来像

当所では、これらの課題を解決するため、地域グリッドの将来像を設定し、様々な研究開発を進めている。前述の系統運用面や構成面の課題を解決するためには、電力系統全体の運用と協調を取りながら、地域グリッドを地産地消型の運用に進化させていく必要があると考えている。ここで言う地産地消型とは、あるエリアで完全に需給バランスをとること(需要=供給[kW])ではなく、可能な限り需給バランスをとること(需要≒供給[kW])を意味する。これにより、地域グリッドと基幹系統をつなぐ送配電線の送電容量を低減でき、送配電設備コストを低減できる可能性がある。

将来像実現のための技術開発状況

地産地消型の地域グリッドを実現するためには、グリッド内の需要家設備や発電設備を監視、情報を収集し運用する必要がある。そこで、当所ではプラットフォームの構築を提案しており、系統管理で活用できる各種解析・分析ツールを開発している。さらに、地域グリッド内の余剰電力を消費するための技術開発も必要であり、当所では、需要が少ない山間部や離島などでの農業電化技術の開発の中で、エアコンや照明の利用法や必要量の最適化、その評価手法確立に向けた取り組みを実施している。

図

プラットフォーム図

著者

上村 敏/うえむら さとし
電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 上席研究員
1997年度入所、専門は電気・電子工学。

電気新聞 2022年2月2日掲載

Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry