電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(262)
英国において顧客ニーズを重視する小売電気事業者の料金メニューとは?

英国の小売電気料金の動向と課題

昨今の燃料価格高騰により、英国の小売電気料金は自由化開始以来の上昇を続けている。契約変更をしない一般家庭に適用される標準料金は、上限規制が適用されているが、22年4月時点で20年同月と比較して約80%と大きく上昇している(図)。

図

現下の英国の小売事業の喫緊の課題は電気料金の安定と低下であるが、一方で再生可能エネルギーの活用やデジタル化を背景とした市場環境の変化に対応した料金メニューの創出は引き続き課題となっている。

顧客ニーズを重視する料金メニュー

こうした市場環境の変化に伴い、英国では顧客ニーズに対応した料金メニューが設計されてきた。例えば、電力消費量の多い世帯の電気料金の抑制ニーズに対しては、市場価格が事前に設定した水準以下になった場合に、自動的に作動する家電製品をセットにした市場連動型の料金メニューが提供されている。自動ではなく、自身で家電製品の利用タイミングを判断したい顧客に対しては、音声によって電気料金が抑制されるタイミングを知らせる機器をセットにした料金メニューもある。この他、顧客の生活様式に応じたオーダーメイド型の時間帯別料金メニュー等も考案されている。

料金メニューの設計におけるリスク管理

顧客ニーズへの対応は新たな料金メニューを創出する重要な要素であるが、昨年、英国で顧客ニーズを重視した料金メニューを提示しながら、経営破綻した大手新電力がある。この会社は、顧客ニーズとして電気料金水準の透明性と選択の簡素化を重視し、卸電力市場価格に連動する料金メニューのみを提供してきた。多くの顧客から定評があった一方で、経営の安定性の観点からは、リスク管理が特に重要な料金メニューであるにもかかわらず、不十分な対策であったことが指摘されている。

市場連動型料金の場合、卸電力価格高騰のリスクは原則として顧客が負う。しかし、実際に顧客に卸電力価格の高騰を全て負わせれば、他社へのスイッチングが増え、最終的には小売事業者の経営が厳しくなる。すなわち、市場連動型料金メニューを提示する場合であっても、先物市場などを活用して適切なリスク管理を行い、料金への転嫁を一定程度抑制する対策が本来は必要となる。

また、透明性の確保という特定の顧客ニーズのみを重視すると、市場環境の変化によって、他の顧客ニーズ(料金の安定性)がより重要になった場合に顧客離脱の影響を大きく受ける。つまりリスク管理の観点からは、市場環境の変化も見据えた料金メニューのポートフォリオを組むことが重要と言える。

求められる料金メニューの進化

わが国においては、燃料価格高騰に加えて省エネ法の改正もあり、再生可能エネルギーの余剰電力の発生時に需要シフトを促す料金メニューの整備が求められている。この実現のためには、顧客の電力需要の特徴を把握したうえで、ニーズを反映した料金メニューの設計が一層重要になる。経営継続のための適切なリスク管理も重要であり、試行錯誤が予想されるが、顧客の支払う対価に見合う新たな料金メニューの進化が求められるだろう。

著者

澤部 まどか/さわべ まどか
電力中央研究所 社会経済研究所 主任研究員
2009年度入所、専門は規制の経済学・産業組織論、博士(商学)。

電気新聞 2022年6月29日掲載

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