電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(263)
英国の廃止措置における事業者と政府の役割分担はどうなっているか?

原子力発電所の廃止措置については、発生者負担原則に基づき、一般的に、事業者が一義的な責任を負う。一方で、各国の原子力政策や事業環境の成立経緯等の違いから、政府が廃止措置に様々な形で関与している事例もある。本稿では、原子力発電を積極的に活用しようとしている英国の廃止措置の特徴について述べる。

民営化対象の炉の廃止措置の責任は事業者と政府で分担

原子力発電事業が国営だった時期に建設された炉の中で、民営化対象から外れた旧式のガス冷却炉は全て閉鎖されており、その廃止措置は、政府による直接の資金提供を受けて、公的機関である原子力廃止措置機関(NDA)によって実施されている。

民営化対象となった軽水炉1サイト(サイズウェルB)と改良型ガス冷却炉(AGR)7サイトについては、廃止措置の資金確保のために、事業者であるEDF Energy(EDFE)は、一定の拠出金を原子力債務基金(NLF)に支払うことが求められている。NLFは、EDFEの外部に置かれ、EDFEの資産と分離された(外部・分離勘定型)基金であり、廃止措置に関連する用途にのみ使用可能である。NLFに事業者が拠出した額で不足する場合には政府が賄うことになっており、民営化対象の炉の廃止措置の資金を最終的に確保する責任は政府にある。

AGRの廃止措置については、燃料搬出段階が完了した時点以降、ライセンス(及び所有権)がEDFEからNDAに移転され、実施責任もNDAに移転される。サイズウェルBの廃止措置については、NLFによる資金提供によって、EDFEが実施することになっている。

民営化対象の炉の廃止措置の責任は、事業者と政府によって分担されているが、事業者の責任は有限であり、政府が最終的な責任を担っている点が英国の特徴である。民営化後にこれらの炉を所有・運転していたBritish Energy(BE)の経営危機に際して、再建のために政府が前面に出て廃止措置の責任を担わざるをえないという判断があったと考えられる。結果的にBEはEDFEに買収されることになったが、BE再建の際の条件(先述した一定の拠出金等)を承継したことで、その炉の廃止措置を担うEDFEの責任は有限である。

今後の原子力発電の活用と廃止措置

政府は、原子力発電を重要な電源として位置づけ、運転による安定した収入を約束する等、新設促進のための様々な施策を実施している。その前提の下、建設中のヒンクリーポイントCを含めた新設炉の廃止措置については、資金確保及び実施の責任は事業者が負う。廃止措置のための適切な資金確保の見通しを示すために、建設開始前に、事業者は、廃止措置基金プログラム(FDP)を作成し、国務大臣の承認を得ることとなっている。FDPでは、外部・分離勘定型の廃止措置基金を設けることが求められている。原子力事業が国営だった時期に建設した炉の廃止措置に政府が強く関与せざるをえなかった経緯を踏まえ、新設炉の廃止措置については、事業者の責任で完了できるような制度整備に政府が尽力したと言える。

FDPは、安定して得られる収入から、廃止措置費用を着実に確保する見通しを示すためのものであり、新設促進策と表裏一体と見なすことができる。長期間にわたる廃止措置の円滑な遂行のためには、一義的な責任を負う事業者が、廃止措置に必要な資金を着実に蓄積できる健全な経営基盤を維持できるような措置が重要である。

英国の廃止措置の事例を理解するには、廃止措置を含めた原子力政策全体のあり方を考えるという視点が必要である。NDAやNLF、FDP等の機能のみに着目するのでは不十分で、今後の原子力発電の活用のあり方を見据えた上でのそれぞれの仕組みの位置づけを把握することが求められる。

日本においても、エネルギー政策における原子力発電の役割を政府が明確にした上で、廃止措置を含めて、事業者が適切な事業運営を行えば十分な利益が確保できる事業環境の整備をする必要があり、それを考える上で英国の事例は参考になるだろう。

著者

稲村 智昌/いなむら ともあき
電力中央研究所 社会経済研究所 主任研究員
2010年度入所、専門は原子力政策分析、博士(エネルギー科学)。

電気新聞 2022年7月20日掲載

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