電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(272)
電気自動車を定置用蓄電池の代わりとして活用するためには?(上)

カーボンニュートラルを実現させるため、化石燃料の代わりに、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネの導入が進められている。しかし、再生可能エネは、天候や季節、時刻により変動してしまうという課題がある。

変動をカバーするための火力発電と定置用蓄電池

再生可能エネの変動をカバーするための調整力は、現状、火力発電に依存している。つまり、化石燃料の代わりに導入した再生可能エネを、実は化石燃料が支えている。また、こうした運用は、火力発電の稼働率を著しく低下させるため、発電所が閉鎖される要因の一つとなるなどの悪循環が指摘されている。

今後、火力発電依存を軽減させるため、蓄電池を再生可能エネの調整力とすることが期待されている。我が国では、既に系統安定化のため数十~数百MW級の定置用蓄電池が、また、離島のマイクログリッドのため、数MW級の定置用蓄電池が、それぞれ導入されている。なお、近年は、電気自動車にも多用されるリチウムイオン二次電池を、定置用蓄電池として採用する事例が増えている。例えば、北海道豊富町では、600MWの風力発電出力を平滑化させるため、240MWのリチウムイオン二次電池設備を建設中であり、2023年3月には運開予定となっている。

カーボンニュートラルに向けた電気自動車政策

経済産業省では関係省庁と連携し、2021年6月に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を提言した。このうち、自動車・蓄電池産業については「2035年までに、乗用車新車販売で電動車100%を実現」と記されている。なお、ハイブリッド車は電動車に含まれる。また、商用車については、これとは別にマイルストーンが記されている。欧州委員会でも、2021年7月に同様の提言をしており、我が国よりも厳しいマイルストーンを定めている。EU改正規則2019/631には「2035年までに、乗用車と商用車から排出される温室効果ガスを100%削減」と記されており、2022年6月の改正においてもこの文言は維持されている。商用車も含めてハイブリッド車を排除する内容である。両者とも2035年のマイルストーンを定めたものであるが、100%実現の定義が似て非なることが判る。当該規則については今後改正される可能性があり、引き続き注視する必要がある。

電気自動車は定置用蓄電池として使い難い?

今後普及が見込まれる電気自動車を、前段で述べた再生可能エネの調整力とする試みは、国内外で精力的に進められている。特に、電気自動車を定置用蓄電池として系統に繋ぐ研究は、我が国でも実証事業として電力会社を中心に進められてきた。しかし、こうした実証事業では、電気自動車が充電器に接続された「後」の研究が主体であり、電気自動車が充電器に接続される「前」からの研究はあまり対象とされてこなかった(図)。そもそも自動車は同じ場所に長時間留まっていないため、電気自動車は定置用蓄電池として使い難いのでは?と評される側面がある。次回は、電気自動車を定置用蓄電池の代わりとして活用するための、電力中央研究所の考えや取り組みを述べる。

図

図 電気自動車を定置用蓄電池の代わりとして活用する研究

著者

名雪 琢弥/なゆき たくや
電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 上席研究員
1994年度入所、専門はパワーエレクトロニクス、博士(工学)。

電気新聞 2022年11月30日掲載

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