電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(278)
気候変動が電力システムや設備に及ぼす影響は?

気象災害の発生件数と被害額は、増加の一途をたどっている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、今後数十年間は、これまで50年に一度しか発生しなかった様な異常気象の頻度が増していくと指摘されている。実際、近年わが国では毎年のように豪雨・洪水・暴風の被害が発生し、一部では電力安定供給に支障をきたすなど、気象災害の激甚化の傾向が実感されるようになった。世界的な再生可能エネの導入拡大により、電力と気象の関係がより密接になる中、気候変動が物理的に電力システムに及ぼす影響(気候リスク)を評価し、それに基づきエネルギー安全保障の面から電力インフラの気候レジリエンス(強靭性)を高める重要性が社会的に認識されている。

電力インフラに対する気候リスク

気候変動に伴う自然現象の変化は、発電(供給)から送配電(流通)、需要まで、電力システム全領域に広範かつ複雑な影響を与えると考えられる(図)。また、それらの重畳影響により、より深刻なリスクにエスカレートする可能性がある。電力システムはすでに日々の気象から影響を受けており、過去の情報を踏まえて将来の影響を評価・予測することが重要である。気候変動による気候リスクは、急性リスク(極端現象の変化)と慢性リスク(温暖化とともに徐々に変化する平均量の影響)に大別される。近年の暴風・大雪に関わる極端かつ急激な事象は、それ自体が直ちにインフラの機能損壊を伴う停電や、その対策コストの増加をもたらす急性リスクに分類される。一方、猛暑による需給逼迫の増加、無降水日数の増加や降雪の減少による水力発電量の低下、季節風の弱化による風力資源量の減少といった慢性リスクも、長期的には懸念されている。

図

図 地球温暖化が我が国の電力システムに与える影響

気候リスク評価に向けた取り組み

これらの影響評価は、科学的な情報に基づき、発電・送配電・需要の各セクターにおいて地域ごとに詳細な分析が必要である。電力中央研究所では、事業者の気候変動対策支援の観点から、2023年2月1日に本欄で紹介したような最新の気候予測データを活用し、気候リスクに繋がる直接要因の将来変化を分析している。水力に関しては降水から流量を算出する流況解析により、個別ダム・河川において温暖化影響下の洪水流量や水資源量を把握することを可能にしている。また、送電インフラに関しては、暴風・大雪といった極端事象の変化を設計外力に考慮するための技術開発を行っている。さらに、太陽光・風力の出力急変・低出力事象や電力需要など需給バランスに関連する事象の将来変化を、統合的に分析するためのデータ構築も開始した。今後、これら気候変動影響情報の的確な共有・発信に関するプラットフォーム開発も進めていく予定である。

電力システムのリスク管理に向けて

一般に、気候リスクは、気象のハザード(物理的な影響をもたらす直接要因の変化)と、その影響を受ける電力システムの置かれている状況や影響の受けやすさが相互に関係する。最終的に得られるセクターごとのリスク評価結果は、各設備の適応策だけでなく、電力システム全体の将来設計や企業のリスク管理戦略に統合的に考慮されていくことが望ましい。

著者

大庭 雅道/おおば まさみち
電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 主任研究員
2009年度入所、専門は気候ハザード・再生可能エネルギー、博士(理学)。

電気新聞 2023年3月1日掲載

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