電力中央研究所

一覧に戻る

電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(315)
英国サイズウェルC原子力発電所に適用されるRABモデルでは何が考慮されているか?

英国で原子力発電所の新増設を促すための投資回収の手法として導入された「規制資産ベース(RAB)モデル」は、フランス電力(EDF)が建設準備中のサイズウェルC(SZC)原子力発電所への適用が決まっており、現在その詳細設計が進んでいる。脱炭素化やエネルギー安全保障に大きく貢献しうる原子力発電だが、初期費用が大きく、建設のリードタイムも長いため、投資家が負担するリスクは大きく、資金調達コストが総費用を大きく押し上げることになる。RABモデルでは、そのようなリスクを需要家も分担することで投資家の負担を軽減する。その結果、資金調達コストを抑えて総費用を削減し、原子力発電の恩恵を国民が安価に享受できるようにする狙いがある。

建設期間中の費用回収方法

RABモデルにおける費用回収方法は、建設期間中と運転期間中の二つのフェーズに分かれるが、いずれも適正な費用に基づき規制当局がSZCを運営する事業者(SZC社)に認めた収入(Allowed Revenue)について、その原資をすべての小売事業者がそれぞれの市場シェアに応じて負担する形をとる。

建設期間中に支出する建設投資(資本的支出)はいったん「規制資産ベース」に計上される。この規制資産ベースに、規制当局が認めた適正な加重平均資本コスト(WACC)を乗じたものが、建設期間中の投資家のリターンとなる収入として認められる。その他、建設期間中に発生する諸経費や税金などを支払うための収入も認められる。

なお、規制資産ベースに算入された建設投資は、運転開始後に減価償却を通じて回収される。建設投資は、規制当局が適正と認めた範囲で実際に発生した金額で算入されるが、建設投資の削減が想定よりも進んだ場合には、その分、規制資産ベースを減らすのではなく、一部は算入が認められ、投資家のリターンを含めた収入が確保される。これは、効率化による建設投資の削減を促すためのインセンティブである。建設に遅延が生じた場合には、期限を過ぎて発生した投資も規制資産ベースに算入されるが、その分について投資家のリターンを決めるWACCは引き下げられる。

運転期間中の費用回収方法

運転期間中は、先に述べた規制資産ベースに基づく投資家のリターンや減価償却費に加え、毎年の発電事業に必要な運転維持費を賄うために必要な収入が認められる。

運転開始後の運転維持費や追加的な資本的支出に対しても効率化インセンティブが設定される。具体的には、実際の支出額が認められた収入よりも少なければ、削減分の一定割合(シェアリングファクター)の追加収入が認められ、逆に多ければ、超過分の一定の割合のみしか追加収入は認められない。

なお、運転開始後は、基本的には発電した電力量に応じて収入が得られるようになっている。したがって、何らかの理由で発電できなければ、その間の収入は途絶え、それが長引けば債務不履行に陥るリスクがある。こうしたリスクへの対応策として、収入支援策が用意されている。計画外停止で長く発電できなかった場合、SZC社は、当面の資金繰りに必要な収入支援を国に申請できる。また、SZC社には事業継続に必要な運転資金として最低限必要な収入が保証される。

他方で、設備利用率を事前に定められた目標よりも高くできた場合、SZC社が追加収入を得られるようなインセンティブも設定される。

RABモデルにおけるリスク分担と効率化インセンティブの重要性

このようにRABモデルでは、規制当局による審査を経た上で、規制資産ベースに基づき、運転期間中はもとより建設期間中から投資家のリターンを確保することで、そのリスク負担を軽減しており、資金調達コストを抑えつつ投資を促すことが期待されている。その上で、SZC社に効率化を促すためのインセンティブが働くようにして、その成果がSZC社だけでなく需要家にも還元されるようになっている。一つ一つのインセンティブが実効性を持つかどうかは、今後決定される様々なパラメータにも依存するが、少なくとも定性的には、脱炭素の目標達成やエネルギー安全保障の確保にとって有益な原子力発電を民間で進めながら、需要家の負担も最小限とするような制度設計が進んでいると言える。

著者

服部 徹/はっとり とおる
電力中央研究所 社会経済研究所 研究参事
1996年度入所、専門は公益事業論、博士(経営学)。

電気新聞 2024年8月28日掲載

Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry