電力中央研究所

一覧に戻る

電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(316)
低炭素水素導入に拍車をかけるためには?

低炭素水素への期待と水素の供給手段

効率的な脱炭素化ならびにエネルギーの安全保障のためには、水素の利用が必要不可欠と言われている。その理由として、水素は利用時にCO2を排出しないエネルギー媒体であること、発電用以外にも産業用、輸送用ならびに家庭用等への展開が可能で、電化が難しいと言われる分野の脱炭素化をも後押しできること等が挙げられる。

水素の供給手段としては、大きく海外製造と国内製造がある。海外からの輸入に対して国内で水素を製造するメリットは、エネルギー自給率向上(エネルギー安全保障)、再生可能エネ導入拡大(再生可能エネ出力抑制回避、火力発電設備の利用率や運用性の向上、 電力系統の混雑緩和、 系統増強の最小化等)への寄与が挙げられる。

再生可能エネを用いて水または水蒸気電解により製造された水素(グリーン水素)は、化石燃料由来のグレー水素ならびにCCSを伴うブルー水素よりも製造時のCO2の直接排出量が少ないため、環境価値が高いとされている。一方で、水電解コストおよび我が国の再生可能エネのコストが未だ高価である予想のために、特に国内グリーン水素利用は経済性に乏しいと言われてきた。

国内外グリーン水素の経済性比較

図は、2030年に想定される太陽光発電を用いたグリーン水素の国内と豪州のコスト比較である。豪州の場合は、製造したグリーン水素を液化しタンカーで日本まで国際輸送するコストを加算している 。図の横軸の括弧内はそれぞれ、太陽光発電のコストならびに設備利用率を示す。縦軸の均等化水素原価とは、均等化発電原価を応用した水素コストを表す指標である。試算の前提条件として、太陽光発電について国内は政府のエネルギー基本計画を、豪州は国際再生可能エネルギー機関の発表を基とした。水電解についてはアルカリ形を用いる想定で、水素・燃料電池戦略ロードマップの値を基とした。液化やその国際輸送については闞らの文献等を基に算出し、試算に供した。紙面の都合上、全ての前提条件を紹介しきれないため、詳細は電力中央研究所報告M19003を参照されたい。

図

図 2030年における国内外のグリーン水素の経済性比較 *1

図から明らかな通り、国内グリーン水素の均等化水素原価については太陽光発電のコストが6割近くを占める。一方豪州の太陽光発電のコストは国内の約3分の1であり、水電解のコストと合計すると、国内グリーン水素の約半分である。しかし、液化のコストと国際輸送のコストを加算すると、CIF価格で58.1円/Nm3となり、国内グリーン水素の52.9円/Nm3よりも高くなる。ただし注意すべきは国内グリーン水素がほぼ大気圧の水素であるのに対し、国際輸送した豪州のグリーン水素は液化水素のため純度が高く、冷熱利用の付加価値を有することが挙げられる。

低炭素水素の導入に拍車をかけるためには

前述の通り、エネルギー密度の低い水素は輸送にかかるコストが高いため、国内グリーン水素は輸入グリーン水素とは競合しうるが、いずれの供給方法も30年の我が国の目標30円/Nm3より高い。そのため、国内の場合はコストの約6割を占める発電のコスト削減と共に、4割を占める水電解のコスト削減に取り組む必要がある。水電解については設備費の削減に加えて、設備利用率を引き上げることも重要である。一方、輸入水素の場合は、エネルギーキャリア製造(本稿のケースでは水素の液化)のエネルギーコストと、国際輸送(積地、揚地の貯蔵コスト含む)のコストの削減が重要である。またこのようなコスト削減に加え、現在整備されつつある、低炭素水素導入のための補助制度の充実化も必要不可欠である。

著者

西 美奈/にし みな
電力中央研究所 エネルギートランスフォーメーション研究本部 上席研究員
2017年度入所、専門は電気化学、水素サプライチェーン評価、工学博士。

電気新聞 2024年9月11日掲載

Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry