電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(325)
安定供給を担う火力発電の役割と燃料アンモニア導入効果は?

安定供給を担う火力発電の役割とカーボンニュートラル化

気候変動抑制に向けたカーボンニュートラル(CN)への取り組みが進行しており、電力供給においても再生可能エネの主力電源化等が求められている。CN化を進める前提として、CN化後の我が国の産業競争力を高めていくことが重要であり、そのひとつとしてデータセンターや半導体産業などの成長産業を誘致するための基盤整備が必要である。電力供給における基盤整備とは主に電力の安定供給の維持であり、電力の安定供給とCN化を並行して進めることが必要である。

電力の安定供給を維持しつつ、CN化に向けて再生可能エネの主力電源化を推進するには、再生可能エネの自然変動に対する調整力や、曇天・無風時の供給力の維持が不可欠である。また、大容量の電力供給を担う高圧系統では、周波数変動を緩和する慣性の維持、系統事故時の電圧維持に必要な短絡容量の確保、送電に必要な無効電力の供給など、多くの役割を併せ持つ同期発電機の維持が有効である。火力発電は、これらの同期発電機が持つ役割を大規模かつ集中して維持できる。加えて、電力のCN化に向け、火力発電の燃料を低炭素燃料に徐々に切り替えて調整力を低炭素化しつつ、安定供給の役割を維持することが有効である。

火力発電の低炭素化の選択肢と燃料アンモニアの価格

火力発電の低炭素化技術には、水素・燃料アンモニア(NH3)・バイオマスの混焼や専焼利用、二酸化炭素回収・貯留(CCS)等の選択肢が挙げられる。将来的には再生可能エネ由来の水素を利用することも考えられるが、火力発電では多量の燃料を利用するため、CNに向けた移行期には、輸入水素や燃料アンモニア、CCS技術を利用することが現実的である。電力中央研究所では、今後調整力としての役割が増す石炭火力の燃料として、燃料アンモニアを混焼した場合を対象とし、その価格を想定した時の運用費を試算した。すなわち、原子力発電、水力発電、火力発電、揚水発電、再生可能エネ等で構成される標準的な電源構成を対象に将来の電源運用を試算し、石炭火力に燃料アンモニアを混焼した場合の電源運用に必要な火力発電の運用費を算定した。火力発電の燃料費は、石油が77ドル/バレル、天然ガスが8.5ドル/mmBTU、石炭が77ドル/トン、為替レートは1ドル=110円とした。燃料アンモニアの価格は、製造時にCCSを行うブルーアンモニアのIEA試算値である①高値(390ドル/トン)や②低値(260ドル/トン)に加え、③製造時にCCSを行わないグレーアンモニアが資源国の国策により特に安価となる価格(131ドル/トン)、および④後者二つの中間値(196ドル/トン)の4つを想定した。

燃料アンモニアによる調整用石炭火力の低炭素化

図に調整力として運用する石炭火力2機の燃料アンモニアの混焼率(0~50%:発熱量ベース)を変更したときの、火力発電全体の運用費(燃料費、起動・停止費、CO2対策費を考慮)を各燃料アンモニア価格について示す。本図では、石炭火力2機への燃料アンモニア供給量(t-NH3/日)を横軸に示した。燃料アンモニアの価格が196ドル/トン以下であれば、CO2排出のない燃料の優位性が高まるため燃料アンモニアの利用量が増え調達時に有利になるとともに、火力全体での運用費も低廉に維持できること、即ち安価な電力供給が維持できる結果を得た。一方、この燃料アンモニアの価格はIEAの示すブルーアンモニアの低値より低く、国外との関係の下、安価で安定した低炭素燃料の確保が課題となる。

図

著者

吉葉 史彦/よしば ふみひこ
電力中央研究所 エネルギートランスフォーメーション研究本部 副研究参事
1993年度入所、専門はエネルギーシステム工学、博士(工学)。

電気新聞 2025年1月29日掲載

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