前回の本ゼミナール欄では、再生可能エネの主力電源化による電力の低炭素化と安定供給に、火力発電の役割が重要であることを述べた。また、将来の供給力や調整力として重要となる石炭火力発電の低炭素化に向け、燃料アンモニアを導入したときの運用費を紹介した。今回は、水素をガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)に導入したときの運用費等を述べる。
GTCCは主に天然ガスを燃料に利用し、発電効率が高く63%を超える機種もあることから、相対的にCO2排出の少ない発電方式である。またGTCCは天然ガスと空気の燃焼ガスを作動媒体として直接利用することから、発電出力の変化に優れ、加えて発電設備の大容量化が進められているため、大きな調整力と供給力を有する。そのため、再生可能エネの主力電源化にあたり、その自然変動を調整して安定供給を支える重要な役割を担う。現在ではGTCCの調整力や供給力の更なる低炭素化のため、燃料である天然ガスを水素との混焼や専焼に切り替える技術開発が進められている。
水素は、再生可能エネ等の電力を利用し、水を電気分解して作る必要があり、その製造量は限られる。火力発電で必要とする燃料は非常に多く、当面は海外の化石燃料からCO2を回収・貯留(CCS)し、いわゆるブルー水素として輸入し利用することが現実的である。我が国では水素の調達に向け、豪州の褐炭をガス化してCCSを行って得られる水素を輸入する取り組み等が進められている。また、水素の調達価格として、2030年に1ノルマル立方メートル当たり30円、2050年に同20円の目標を掲げている。
電力中央研究所では、これらの水素の調達価格を参照し、安定供給に必要な調整力を担うGTCCの燃料を、水素の混焼もしくは専焼により低炭素化した時の設備利用率や追加コスト等を試算した。具体的には、原子力発電、水力発電、火力発電、揚水発電、再生可能エネ等で構成される標準的な電源構成を対象に将来の電源運用を試算し、GTCCに水素を混焼・専焼した場合の電源運用に必要な、火力発電の運用費の試算結果を示す。火力発電の燃料費は、石油が77ドル/バレル、天然ガスが8.5ドル/mmBTU、石炭が77ドル/トン、為替レートは1ドル=110円とした。
図に、調整力を担う25万kWのGTCC10機に、水素を30%混焼で導入したケース、同じく25万kWおよび60万kWのGTCC2機に水素を専焼で導入したケースについて、水素価格を設定した時の火力発電全体の運用費(燃料費、起動・停止費、CO2対策費を考慮)を示す。なお横軸に、検討対象とした標準的な電源構成全体の発電電力のCO2排出原単位を、水素導入なしのケースを基準として示した。
特に25万kWの中型のGTCCや、60万kWの大型のGTCCに水素を専焼で導入した場合には、電力のCO2排出原単位は低下、つまり電力の低炭素化が進むとともに、50年の水素導入価格目標が達せられれば、火力全体での運用費を抑制できる結果を得た。
一方、大型のGTCCで水素を専焼で利用するには大量の水素を安価に調達する必要がある。まずは水素を混焼で利用し、電力の低炭素化を進めつつ、あわせて調整力の低炭素化にも段階的に取り組むことが有効である。また、水素は流通量が少なく高価なため、水素を安価に製造する技術開発に加え、当面は、その調達先、調達方法の多様化を進め、海外より水素を安価に調達することが重要となる。
電気新聞 2025年2月12日掲載