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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(327)
なぜ、英国のCCS火力可変費支援は、メリットオーダーを逆転させる値差支援なのか?

CCS火力(CO2回収装置付火力発電所)への支援策は、発電容量への支援と可変費への支援に大別される。わが国では、前者は「長期脱炭素電源オークション」、後者は「炭素差額決済」が該当する。炭素差額決済とは、CCSコストとCO2対策費用(主に排出量に課される炭素コスト)の差分を補填するもので、現在カーボンマネジメント小委員会(CM小委)で具体化が進められている。

ここで問題となるのは、電力部門の特殊性である。というのも、単に値差を埋めるだけでは不十分で、メリットオーダーを逆転させる必要があるためだ。わが国が手本とする英国の可変費支援では、この点が考慮された。

英国のCCS火力可変費支援策の設計

通常、CCS火力のメリットオーダーは、対策なし火力(CO2回収を行わない従来火力発電)に劣後する。これは、主にCO2回収装置の運転に所内動力が用いられ、発電効率が低下するためだ。そのため、CCS火力を運転させるには、支援によってCCS火力が先となるようにメリットオーダーを逆転させる必要がある。英国では「基準プラントの設定」を工夫することでこれを実現させる。詳しく見ていこう。

英国のCCS火力の可変費支援は、火力発電事業者と政府関連機関の間の「ディスパッチ可能な電力契約」に基づいて支払われる。ディスパッチ可能とは、給電指令所等からの出力制御信号に合わせ運転出力の増減が可能なことを意味する。

この契約の下での支援金額は、基準プラントとの可変費の差額に基づく。CCS火力の可変費は、対策なし火力のそれと比べ、燃料コスト、回収コスト(冷却水等)、輸送・貯留料金の分は増加するが、CO2対策費用は排出削減により減少する。これらの合計と基準プラントの差額が支援される(図)。

図

重要なのは、基準プラントを、現在稼働している対策なし火力の中で最も高効率で排出量が少ないガスタービン・コンバインドサイクル発電としていることだ。これとの差額分を支払うことで、CCS火力の可変費は最高効率の既存火力と同等、つまりそれよりも効率が劣る大半の火力よりも低くなり、メリットオーダーが逆転するのである。

もともと英国では、メリットオーダーを考慮しない単純な差額決済だった。しかし、これではCCS火力の投資決定がなされなかった。この反省を踏まえ、CCS火力を、再エネと原子力では需要を満たせない際のディスパッチ可能な脱炭素電源と位置付けたうえで、対策なし火力よりメリットオーダーが先になるような可変費支援を設計したのである。なお、現時点ではNet Zero Teesside Power社が政府関連機関と契約を結び、2028年運用開始を目指す。

CM小委への期待

日本のCM小委で検討されているのは、初期段階ではCCS導入にインセンティブを与えるために、値差を補填しつつも、長期的には、炭素価格が上昇し、排出量の多い対策なしの費用の方が高くなり、支援が不要となる「CCS事業の自立化」である。確かに、電力以外の産業部門では、CO2対策費用と、CCS導入等他の排出削減手段との費用を比較することとなるため、この単純なイメージに合致する。しかし、電力部門では、英国を見てもわかるように、値差支援の設計は、脱炭素化に向かう電力市場でのCCS火力の位置づけに左右される。CM小委の議論では、ガス火力中心の英国とは異なる、石炭とガスの役割分担も含めたCCS火力の位置づけに加え、再エネなど他電源の運用によって運転出力を増減されるという、産業部門にはないCCS火力の特性を踏まえた可変費支援策の検討が期待される。

著者

坂本 将吾/さかもと しょうご
電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部(兼)社会経済研究所 主任研究員
2016年度入所、専門はカーボンマネジメント技術・政策、博士(工学)。

電気新聞 2025年2月26日掲載

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