電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(328)
なぜ、英国のCCS火力発電容量支援では、クロスチェーンリスクが考慮されるのか?

CCS火力(CO2回収装置付火力発電所)の支援策について、本欄前回の可変費支援に続き、今回は発電容量支援を取り上げる。

CCS火力への発電容量支援は、わが国では、長期脱炭素電源オークション(脱炭AU)が該当する。これまでの入札では、CCS火力は案件がなく募集されなかったが、現在、「先進的CCS事業」から応札の見込みがあるため、応札条件が検討されている。検討では、クロスチェーンリスク(CR)の考慮が論点の一つだ。

CRとは、他の事業者の責任による事象により、自身には帰責性がなくとも、事業運営・収入等に悪影響が生ずることを指す。CCS事業では、回収・輸送・貯留が連続的につながり、このチェーン上で複数の事業者が連携する。CRはこの相互依存性から生じるリスクであり、英国は発電容量支援にCRの軽減措置を組み込んだ。

CCS事業のクロスチェーンリスク

英国で検討されたリスクは「建設の遅延」「事業の停止」「事業規模(回収量や貯留可能量)が想定を下回る」等である。これらのリスクは、回収側と、輸送・貯留側の双方で別々に生じ得る。そして、輸送・貯留側での設備トラブルなどで、予定通り貯留できない事業停止が生じると、回収側のCCS火力では、回収CO2が処理されないCRが生じる。他方、電力市場の動向、電力ネットワークや燃料供給のトラブル等により、発電が停止ないし出力低下すれば、CO2回収量が減少し、輸送・貯留側のCRとなる(図)。

図

英国のCCS火力発電容量支援策の設計

英国では、発電事業者と政府関連機関の契約において認定された発電容量をそのまま支援するのではなく、その容量を時間帯ごとの発電設備の利用可能性と回収率を考慮し、割り引いたうえで支援する。この割り引かれる事象の判定に、回収側(発電事業者)の帰責性のない「救済事象」が考慮される。例えば、輸送・貯留事業者のトラブルが該当する。

救済事象が発生した場合、実績の「達成回収率」はその時間帯を除いて算定し、救済事象が生じた時間帯に対しては、期待される回収率として、契約時に合意された「申告回収率」を実績に関わらず適用する。契約では、ある期間の最低回収率が規定され、これを上回る必要があるが、その際も支払い時に適用された「達成回収率」と「申告回収率」に基づいて判断される。

脱炭AUへの期待

脱炭AUのリクワイアメント案では、CO2の回収率ではなく、貯留率を基準とし、支援を満額得るには、年間貯留率7割以上とされた。CCS事業で重要なことは最終的なCO2貯留であり、 基準達成に向け、回収・輸送・貯留事業者の連携を求めることには合理性がある。同時に、未達成の場合でも、支援停止ではなく、CR等を考慮した減額(貯留率が35~70%は1割減、35%未満は2割減)とした。

しかし、電力部門が貯留率を自ら管理することは困難であり、帰責性のないリスクを負うことで、投資インセンティブが弱まりかねない。同時に、輸送・貯留側の責任が曖昧となれば、CR低減のインセンティブが働きにくくなる。

そのため、この制度案の下での投資決定に際しては、事業者間の契約でリスクを適切に分担し、連携してCRを減らすことが重要となる。そして、そうした合意が実際には困難であるならば、英国のように制度の中で救済事象を指定することも一案となろう。

2050年の想定年間貯留量(1.2~2.4億トン)の目安を踏まえると、足元で進められる「先進的CCS事業」だけでなく、後続事業も必要となる。CCS事業の自立化までの持続的な支援の設計が期待される。

著者

坂本 将吾/さかもと しょうご
電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部(兼)社会経済研究所 主任研究員
2016年度入所、専門はカーボンマネジメント技術・政策、博士(工学)。

電気新聞 2025年3月12日掲載

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