2050年カーボンニュートラルの目標実現に向け、CCSは脱炭素化技術の一つとして位置づけられている。国内ではCCS事業化に向けて法整備や事業性調査(先進的CCS事業)が実施中である。将来的なCCSの社会実装において、社会的受容性の醸成は重要な課題の一つとなっている。
CCS事業の受容性醸成には、まずは事業者側が、人々の懸念や心配、あるいは期待、疑問や質問、情報ニーズ等を特定・分析し、その上で効果的なリスクコミュニケーション戦略を立て、状況に応じて改善しながら実践していくことが望ましい。現状、このような地道な活動は、担当者の人徳や手腕に依存するため、人事(適材適所)や人材育成が鍵となっている。
CCSは、人々にとって日常生活との関わりがなく興味・関心も低いため、単なる情報発信では十分な理解を得るのが難しい。例えば、電気料金への影響など人々が知りたい情報や、身近で関心の高いテーマと関連付けることで考える機会が生まれ、より記憶に残り易くなる。馴染みのある情報とセットで記憶に残ると、後日、関連情報を得た際に思い出し易く、もっと調べてみたいという意欲促進や行動意図に繋がる可能性もある。また、目視できない地下深部は、距離感等がイメージし難い。住民説明会の際に立体的な模型を使った説明や、3次元的な動画等を活用している例もあり、地下の二酸化炭素(CO2)貯留プロセスを視覚的に分かり易く伝える工夫が効果的である。
ただし、CCS技術を社会実装するということは、その安全管理・対策は当然とみなされるため、安全性に関する情報だけで安心感を得るには不十分な場合もある。ヒューマンエラーの可能性も含めて、将来の様々なリスクはゼロにできないため、万一の際の事前・事後対策も含めた準備が必要である。
一方、リスク情報だけでなく人々が実感し易い具体的な便益情報(例えば、雇用効果、地域振興策、知名度、税収等)を準備しておくと、より納得感や受容性が高まる場合もある。便益情報がリスクを相殺するとは限らないが、なぜ自分の地域がリスクを背負うのかという認識が生じる可能性があるためである。
そして何より事業者が説明する際、自分や家族の居住地で実施する場合でもお勧めできる技術であると、自分事として自信をもって説明し、想定問答を入念に備えておくことが、説明内容に対する信頼を高め、サポーターを増やすことに繋がっていくと考えられる。
上記のような情報提供について、一度きりの説明会や単発的なシンポジウム・講演会だけでは不十分であり、意図通りに理解されたかの確認等、今後の改善に繋がるよう各広報活動を評価・分析し、相手に応じてより費用対効果の高い活動が継続できるよう、PDCAの仕組みを構築することが望ましい。例えば、苫小牧CCS実証試験事業では、事業者である日本CCS調査株式会社が、事業初期からあらゆる世代を対象とした様々な理解促進活動を改善しながら現在も実施中であり、参考となるであろう。
広報活動を評価する際、認知度や理解度、受容性を高めるといった漠然とした目標設定では、活動自体の効果の評価は困難である。また、どこまで高めればよいのか、何をもって目標達成と判断するのかが不明瞭である。このため、まずは意識調査によりベースラインデータを確認し、経時的変化等を比較できるよう現状を把握しておくことが望ましい。その上で、期待通りの効果があったのか、説明者や担当者の対応に不満はなかったか等、定量的データに基づき質的な評価・改善をしていくことで人々の満足度も高めることが期待できる。
一方、認知度や理解度と受容性は相関関係にあるとは限らない。詳しく知るほど具体的な課題も見えてきて、より慎重な判断となる場合もありうる。人々の感情や価値観は、社会情勢や他の選択肢によって流動的に変化する。現在、各地で進行中の先進的CCS事業においても、事業の初期段階から継続的に人々の感情や価値観をモニタリングし、フィードバックを得ることにより、地域特有の課題に対して臨機応変な対応が可能となる。
電気新聞 2025年6月25日掲載