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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(351)
なぜ電力設備周辺に潜む植物の脅威は気づかれにくいのか?

電力設備は自然環境の中に張り巡らされ、その多くが植生に囲まれた空間に存在している。設備周辺ではつる性植物などの雑草が季節を通じて生育し、刈り取り後も再生を繰り返す。こうした植物への対応には、設備への支障を未然に防ぐ工夫、影響を抑える対応、発生源の除去、さらには問題が生じにくい状態を維持する考え方など、複数のアプローチがある。本欄では、電力設備周辺の植生が、これまでどのように捉えられてきたかを整理し、植物の性質がもたらす認識上の盲点について考える。

制約下で積み重ねられてきた合理的な現場対応

設備周辺の植物への対応では、植物の接触による電気事故防止と、点検・保守作業を支障なく行うことが常に最優先されてきた。そのため、設備の視認性確保や接触回避のため、設備と植物との距離を保つ対応が現場対応の中心となってきた。

一方で、設備の多くは自社用地ではなく、借地や他者所有地に設置されている。恒久的な植生改変や空間設計が難しい条件の中では、短期的に実施可能な草刈り・伐採が最も現実的な手段として選択され、継続的に行われてきた。

これらの対応は、現場の制約条件の下で、設備の安全性と運用性を確保するために積み重ねられてきた判断の結果である。

植物は成長戦略を持つ存在

こうした対応は安全確保の観点から合理的である一方で、植物の生育特性によって、刈り取り後の再生や繁茂の進み方は大きく異なる。

植物には一年で生育と枯死を終える単年草と、地下に栄養器官を残して生き続ける多年草がある。単年草では刈り取りによって個体数が減少しやすいが、多年草では地下構造が残るため、刈り取り後に翌年の成長が強まる場合がある。

多くのつる性植物も多年性であり、何年もの間に電柱、支線、フェンス、鉄塔部材などの構造物を足場として広がる。植物にとって電気設備は成長経路そのものとなり、繁茂範囲は平面的な草地管理を超えて立体的に拡張していく。

地下で広がる見えないネットワーク

地下に形成される多年草の根や根茎は連続したネットワーク構造である。このネットワークは年々周囲へと広がり、翌年には離れた場所から新たな繁茂が生じる。一見すると植物が生えていないように見える場所でも、地下では横方向への拡張が進行しており、ある年に突然芽生えが現れて繁茂に気づくことがある。すなわち、これまで対策が不要であった場所が、翌年には新たな対策地点へと変化するのである。地上部が除去され、根が切断されてもクローンとして繁殖を続け、繁茂域は点から面へと拡大し、設備周辺の管理範囲そのものが広がっていく。左図は、草を刈り取った直後の様子を示している。4か月後には右図のように再び繁茂している様子がうかがえる。

図

図 植物を動的に捉える視点がなければ、刈り取りは地上部の掃除に終わる

こうして、地上では一時的に除去できているように見えても、地下では拡張が進行しており、次の繁茂に向けた構造が着実に蓄積される。

植物の侵入と拡張は急激ではなく、年単位で進行するため、設備点検・保守作業といった日常業務の中では異常として捉えにくい。さらに、緑は環境に良いものと捉えられる社会的価値観も、植物が静的な存在として認識されてきた要因である。自然にさらされた電力設備は、植物にとって成長の足場となり、繁茂や拡張が生じやすい環境を形成している。植物の成長と侵入を前提に捉え直すことが、今後の設備管理を考える上で重要となる。

次回は、この拡張がどのように電力設備のリスクを増幅させていくのかを具体的に整理する。

著者

橋田 慎之介/はしだ しんのすけ
電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 上席研究員
2008年度入所、専門は植物生理学、エネルギー代謝、光合成、博士(農学)。

電気新聞 2026年2月25日掲載

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