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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(355)
人工衛星は森林をどう捉えているのか?

地球温暖化対策や生物多様性保全の観点からは、森林は保護して維持されるべき対象であるが、電力設備にとっては時として停電や設備被害の原因となる存在である。大規模な台風や豪雨によって倒木や流木などが発生すると、山間部の電力設備には多大な損害が生じる。また、森林を消失させる山火事や土砂災害も、電力設備に大きな影響を与える。それらの災害が発生した場所については、空から森林を観測することで、現在の状態やその後の変化を把握できる。航空機やドローンを用いて目視で確認する方法は、信頼性が高いが時間とコストを要するため、短期間で広い地域をカバーするのは現実的でない。どこをドローン等で重点的に観測すべきか。その判断を支える手段の一つが、広域を観測できる人工衛星のデータである。本欄では、人工衛星のデータからどのようにして森林を把握するかについて解説する。

地表面を観測する主な人工衛星

人工衛星には、雲を観測する気象衛星や大気成分、海域のクロロフィルを観測する衛星など、さまざまな種類がある。地表を観測する衛星は、土地の改変や災害の発生の把握を目的に、土地被覆や植生、土壌の状態を観測の対象として運用されてきた。光学衛星は太陽が反射した光を観測し、人間の見た目に近い画像を得ることができる。ただし、太陽が反射しない夜間や雲の下の観測はできない。SAR(合成開口レーダー)衛星は、光より波長の長いマイクロ波を地上に照射し、その反射の違いを観測する。夜間や雲の下でも地表面を観測することができるが、得られた画像の解釈には専門的な知識を要する。

地球観測のための光学衛星として1972年に打ち上げられたランドサット1号機は、地上解像度が80mであったが、1982年に打ち上げられた4号機では、地上解像度は30mに向上し、目視でもある程度、森林や建物などの地物が判定できるようになった。しかし、同一地点の観測は16日おきとなり、雲が多い地域では同じ季節の画像を毎年度得ることも困難であった。一方、2015年より順次打ち上げられてきた欧州宇宙機関のセンチネル2衛生は、地上解像度が10mに向上するとともに、複数機の運用によって観測頻度を大幅に高めている。さらに、商用衛星でも、より高解像度のものを複数機運用することで、同様に観測頻度の大幅な向上がみられる。こうしたことから、以前は困難であった災害などによる森林変化の速やかな把握や、年間を通じた季節的な変化の追跡が可能になってきたのである。

光の反射を利用した森林の観測

植物が地表面を覆っている土地は、空中写真で緑色に写っている。これは植物の光合成によって、青色や赤色の光が吸収されて緑色の光が反射されるからである。青い光を反射する水面は青く、赤い色を反射する熱帯の土壌は赤く見える。緑の部分を測定すれば、植物が地表面を覆っている面積が分かるが、塗料で緑色に塗られた屋根やグラウンドは植物と区別することができない。一方、赤より少し長い波長の近赤外光と呼ばれる波長域は、植物の光合成によって緑色よりも強く反射される。この波長の強さを使うことで、植物が生えている土地と生えていない土地をより的確に判定することが可能になる。

光の反射の強さは大気の状態や太陽との角度によって変わるため、植物が反射する近赤外光だけを見ていると観測日によってばらついてしまう。その影響を軽減するためには、波長同士の比をとる。具体的には、植物が反射しやすい近赤外光を、吸収されやすい赤色光で割って指数化する。そうして開発されたのが植生指数である。単に比をとるだけでなく、最大が1、最小がマイナス1になるように式を補正したものが、正規化植生指数(NDVI)と呼ばれる。この指数は、植物が全く生えていない土地ではゼロ未満になり、植物の量が多くなれば1に近づいてくる。通常、葉のついた森林は1に近い値を示すが、山火事や土砂流出などで裸地になってしまうと、指数は急激に低下する。森林の中で樹木が弱ったり、枯れたり、倒れてしまえば、同じように指数は低下する。その低下の大きさが、森林に起こった変化を反映している。こうした人工衛星データを活用することで、電力設備へ影響をもたらす森林の変化を把握することができるのである。

著者

阿部 聖哉/あべ せいや
電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 研究参事
2002年度入所、専門は森林生態学、景観生態学、生態系観測、博士(学術)。

電気新聞 2026年4月22日掲載

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