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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(357)
SAR衛星は地表面のどのような状況を捉えられるか?

前回の本欄では、光学衛星を利用して倒木などの森林の被害を把握する方法について解説した。光学衛星では見た目に近い色彩の画像が得られることに加え、植物の状態を反映する波長帯の光を観測しているため、森林を把握することに適した衛星である。一方で雲の多い時期や地域では、光学衛星で地表面を観測することが困難になる。例えば、地球の肺ともいわれる熱帯雨林は年々開発によって失われつつあるが、雲が多いため、光学衛星による伐採状況の把握が難しい。日本でも悪天候時は雲に覆われた画像が多く、災害後の状況把握が困難な場合も少なくない。そのような場合でも雲の下の地表面を観測できる衛星が、マイクロ波を能動的に観測するSAR(合成開口レーダー)衛星である。

SAR衛星による地表面の観測

マイクロ波は、電子レンジの加熱や通信、レーダーなどに使われている電磁波で、光よりも長い波長を持つ。SAR衛星は、マイクロ波を衛星自らが地上に照射し、反射されてきた波の強さを観測する。太陽の反射に依存せず、雲を透過する性質を持つため、夜間や悪天候時にも地表面を観測することができる。ただし、得られた画像の解釈には専門的な知識を要する場合もある。

SAR衛星が観測するマイクロ波は波長帯に応じた呼称がつけられている。波長の短いXバンドは、樹木の葉や枝で反射されるため、森林の細かい構造を捉えることに適している。日本のALOS衛星が観測している波長の長いLバンドは、枝や葉を透過するため、地上や地盤を観測することに適している。欧州宇宙機関が運用しているセンチネル1衛星は、その中間のCバンドによる観測を行っている。

マイクロ波は、凹凸のない平滑な面では、入射した方向とは別の方向へ鏡のように反射されるため、センサ方向にはほとんど戻らない。SAR衛星が観測する波長は、一般的には複雑な構造を持つほど強く、滑らかな表面ほど弱くなる。森林は枝や葉など複雑な構造を持つ樹木から構成されているが、伐採されて地表面が滑らかになると観測されるマイクロ波の強度は低下する。この性質を利用することで、熱帯地域での違法伐採や山火事などによる森林の消失の監視が行われている。

SAR衛星により取得された画像では、多くの場合、陸地が白く、海や川の部分が黒く表示される。水面は樹木やビルの多い陸地よりも滑らかで、観測されるマイクロ波が弱くなることが多いためである。黒い海域の中で航行している船舶は白く映るため、船舶の監視に用いることができる。また、陸地であった部分が完全に水で覆われると、観測されるマイクロ波の強度は低下することから、洪水観測など災害時への応用も期待されている。

自然災害におけるSAR衛星の活用

屋外に設置されている電力設備は、台風や豪雨、地震などの自然災害の影響を受けやすく、設備周辺で生じた災害を迅速に把握することが課題である。光学衛星は、森林が消失した箇所や、陸地が水没した箇所を推定可能であるものの、悪天候が続いて地表面が雲で観測できない場合や、夜間に観測された場合には対応できない。そこでSAR衛星を用いた、水害や土砂災害の把握が検討されている。

樹木やビルに覆われているエリアが水没した場合、マイクロ波の強度は低下する。このことを利用すると、豪雨や津波などにより浸水した地域を広範囲に把握することができる。ただし、水流などにより水面が波立っている場合や、水田などに水を張り、湛水して水面となった場合などに誤判定が生じることや、土壌の湿り具合の変化に影響を受けることなどに注意が必要である。

地震や台風で斜面が崩壊し、森林が消失して裸地化した場合にも、同様にマイクロ波の強度は低下する。伐採や造成などによる変化も同じように反応するため、いかにそれらとの違いを判別するかは大きな課題である。また、SAR衛星はマイクロ波を特定方向に照射するため、照射方向と反対側の斜面の情報を得ることが難しくなる。

SAR衛星は、災害時に機動的に運用することにより、電力設備などインフラ復旧への情報提供を行うことが期待されている。地形によるバイアスや誤判定の要因を低減するような方法を構築することで、さらなる活用が進展することが期待される。

著者

阿部 聖哉/あべ せいや
電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 研究参事
2002年度入所、専門は森林生態学、景観生態学、生態系観測、博士(学術)。

電気新聞 2026年5月27日掲載

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