
近年、わが国の送配電事業は、設備更新、脱炭素電源やデータセンターの接続対応等、不確実性を伴う投資の拡大が求められている。こうした中、料金抑制に加えて、長期的な投資の計画とその遂行の重要性が高まっている。
英国では、送配電事業が「安全保障」「脱炭素」等のエネルギー政策上の長期的価値を実現する基盤であると認識されており、レベニューキャップ制度は、単に短期的な料金抑制を促す制度ではなく、持続的な投資を可能とする制度として設計されている。こうした設計思想に基づいて、近年、規制当局は収入上限の設定時に「資金調達可能性」を送配電料金制度(以下、料金制度)の重要な要件として位置づけている。
英国では、収入上限を確定する前に、その妥当性を、債権者と株主の双方の観点から検証する。債権者の観点からは、格付機関が参照する財務比率(債務返済能力や利息支払能力を示す指標)を用いて、一定の格付の維持可能性を検証する。
一方で、株主の観点からは、事業報酬率の算定で使用する自己資本コストと、規制期間中に実現し得る自己資本利益率を比較し、自己資本への適切なリターンが得られる可能性を検証する。
英国の規制当局は、これらの検証に基づいて詳細設計の調整を行い、収入上限を確定する。必要な資本コストが収入上限に反映されることで、財務の健全性および信用力の維持が図られ、資金調達に要する資本コストの過度な上昇の回避につながる。
さらに英国では、規制期間中に利益率が想定水準から大きく乖離する場合、これを自動的に調整する制度として、利益率調整メカニズム(以下、利益率調整)がある。
この背景には、過去において、一部の送配電事業者が想定を上回る利益を獲得し、需要家負担とのバランスが問題視された経緯がある。他方で、昨今は、制度設計時には予見できない事象によって、利益率が大きく変動するリスクも高まっている。利益率が過度に低下すれば、自己資本へのリターンが想定を下回り、資本コストの上昇を招く。これは、最終的には需要家負担の増加につながる。
こうした事態を回避するための措置として利益率調整が導入されている(図)。利益率調整は、具体的には、利益率が予め設定する第一上限・下限を超える場合、超過分の50%を需要家へ還元、あるいは需要家が負担する。さらに、第二上限・下限を超える場合には、その割合を90%まで引き上げ、調整が行われる。また、第一上限・下限内の変動は、事業者が対応するべきリスクとして、利益調整は行われず、不感帯とされている。
図 利益率調整メカニズム
英国の規制当局は、第二上限・下限を超える利益率の発生を、制度設計の誤りを示唆する兆候として捉えている。このような場合には利益率調整を発動するとともに、規制当局は制度設計の見直しを行う。すなわち、利益率調整はこの見直しまでの間、事業者の財務の健全性および需要家負担を保護するセーフティーネットとして機能する。
社会的に求められる投資を持続的に行うためには、短期的な料金抑制のみではなく、投資に必要な資金調達を考慮する観点が重要になる。こうした料金制度は、資本コストの安定化を通じて、最終的には需要家負担の安定化にも資すると考えられる。
電気新聞 2026年6月24日掲載