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電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(360)
供給力確保に向け、電力システム改革検証後の各市場・制度の役割をどう接続するか?

三つの役割と市場設計見直し

2025年3月に取りまとめられた電力システム改革の検証では、電力システムを支える取引市場の全体像として、①供給力を確保するための取引市場・制度、②量・価格両面で安定的な調達を可能とする中長期取引市場、③効率的な広域メリットオーダー実現のための短期取引市場、という三つの役割が示された。各市場・制度は、電源投資、電力調達、需給運用という異なる時間軸の判断に関わる。同じ電源が複数の市場・制度から収益を得る以上、ある市場の価格や取引ルールは、別の市場での事業者の判断にも影響し得る。そのため、投資・調達・運用の判断が相互に矛盾しないよう、三つの役割を市場体系全体でどう接続するかが問われる。

検証後は、三つの役割に対応して、既存制度の見直しと新たな仕組みの具体化が進められている。供給力確保では、容量市場(長期脱炭素電源オークションを含む)等の見直しやファイナンス支援を通じて、既設電源の維持や新設・リプレース投資の予見性を高める方策が検討されている。中長期取引では、小売電気事業者に実需給の三年前および一年前の時点で一定割合の電力量確保を求める方向が示され、受け皿となる中長期取引市場の整備が議論されている。同市場では2028年度の取引開始が想定されている。短期取引では、電力量と調整力を一体的に扱う同時市場について、詳細設計とシステム要求定義が進められ、導入可能性を見極める段階にある。

供給力確保から見た市場体系

日本では、電力システム改革の過程で、卸電力取引の活性化、広域的な需給運用、小売全面自由化、需給調整市場を通じた調整力調達等、電力量取引や需給運用の仕組みが段階的に整備されてきた。一方で、発電・送配電・小売の役割分担が進む中、安定供給に必要な供給力については、どの時間軸で、どの程度の量を維持・確保するか、また固定費回収を含む電源の維持・投資判断に必要な収益見通しをどう与えるかが課題となった。これは、短期の電力量取引を中心とする市場だけでは、そうした見通しの確保が難しかったこと等によるものである。こうした背景から、容量市場を通じて将来の供給力のkW価値を顕在化させ、投資回収の予見性を高める仕組みが整えられてきた。

ただし、現行の容量市場は主に将来の供給力のkW価値を評価する仕組みであり、実需給で必要な電力量の価値や、需要・再生可能エネルギーの変動に対応する柔軟性の価値を十分に評価するものではない。容量市場で供給力が確保されても、それが必要な電力量の供給や需給変動に応じた運用につながらなければ、安定供給には結びつきにくい。このため、供給力確保に向けては、容量市場等で供給力のkW価値を評価するだけでなく、中長期取引で電力量の販売・調達見通しを補い、短期取引で実需給段階の供給・運用につなぐ必要がある。

販売・調達の見通しと実需給運用

中長期取引市場には、小売電気事業者の調達安定化に資するとともに、供給側の販売量や収益の見通しを高め、必要な電源の維持・投資を支える役割が期待される。容量市場等はkWとしての供給力を評価するが、電源の維持・投資判断には、将来の電力量販売による収益見通しも関わる。中長期取引に厚みが生まれれば、こうした見通しを補い、必要な供給力を市場で確保する一助となる。

また、あらかじめ確保された供給力は、実需給段階で運転可能な資源として活用されてこそ安定供給に結びつく。中長期取引で一定の見通しが得られても、需要や再生可能エネルギーの出力、系統制約は、実需給が近づくにつれて変化し得る。同時市場は、こうした変化を踏まえ、電力量と調整力を同時に取引・約定させ、確保された供給力を実需給段階で有効に活用するための仕組みとして検討されている。

市場体系としての整合性

このように見ると、電力システム改革検証後の市場設計見直しで問われているのは、個別市場の整備にとどまらない。供給力確保を特定の制度だけで捉えるのではなく、時間軸の異なる市場・制度を一体として見る視点が求められる。必要な供給力を維持・確保し、実需給段階で有効に活用できるよう、投資・調達・運用の各判断に一貫したシグナルを与えられるかが、今後の市場設計見直しの焦点となる。

著者

井上 智弘/いのうえ ともひろ
電力中央研究所 社会経済研究所 上席研究員
2011年度入所、専門は電力市場制度分析、博士(経済学)。

電気新聞 2026年7月8日掲載

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