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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(363)
将来の暴風を耐風設計にどう取り入れるか?

耐風設計の現状

昨今、気候変動の影響により、台風などの気象災害の激甚化が懸念されている。電力流通設備においては、台風の強風により被害がもたらされる事例が少なくない。近年においては、令和元年房総半島台風による送電用鉄塔や配電設備の被害が記憶に新しい。少し古い年代の例としては、1991年に発生した「りんご台風」によって、送配電設備を含む広範な被害がもたらされた。のちの調査によって、鉄塔被害のあった地点においては、台風の強風に、特殊な地形による増速効果が重なったことが明らかとなっている。

このような暴風災害に備えるため、国内の耐風設計の指針や設計標準などでは、過去の観測データなどに基づき、50年や100年に一度の頻度で発生する風速を見積もり、その風速に耐えられるよう構造物を設計することとなっている。これにより、過去に発生した強風事例を考慮した設計が可能となる。観測に基づく設計は、国内外において、また耐風設計以外の分野においても採用されている基本的な考え方である。

一方で、オーストラリア・ニュージーランドやカナダの先進的な設計規格(AS/NZS、NBCC)では、近年の観測結果や将来予測に関する知見を踏まえ、気候変動による強風リスクの変化を設計風速に反映する取り組みが進められている。また、世界各国で、気候変動による強風事象の変化が設計に与える影響が調査されてきている。このように、国際的には、将来に発生しうる風速を想定した設計に移行しつつある。

将来起こりうる暴風の風速値をどう見積もるか?

一般に、暴風などの極端な大気現象の将来予測において用いられる気候予測データとして、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書などで用いられているものや、各国の気象機関などが国内に特化して作成したものなどが挙げられる。気候予測データには様々な背景や成り立ちのものがある。例えば、天気予報に用いる数値気象モデルを用いて将来の温室効果ガスに基づく条件を設定し物理法則に基づいて気候を計算する方法などがある。地球全体の大まかな気候変化を評価するためのデータや、ある特定の地域を対象として詳細な解像度で評価したデータなど、目的に応じて様々なデータが開発・公開されている。これらの計算においては将来の台風や温帯低気圧による強風が、解像度に応じた地形の影響も考慮されて解析されている。数値モデルには系統的な誤差が含まれるため、適切な補正を施した風速値を用いることで、将来の風速変化を見積もることができる。

このようなデータ・手順に基づき、電力中央研究所では、気候予測データを用いた将来の強風リスク評価や電力設備のレジリエンス向上に向けた研究開発に取り組んでいる。試算の結果、台風の影響を受けやすい地域で風速が増加する傾向を得ている。この原因として、日本近海も含む北西太平洋の海面水温の上昇などにより、極端に強い台風の割合が将来増加することなどが考えられる。

設計への反映における諸課題と展望

このように、気候変動による風速の増速を日本域において試算した結果は、論文などにおいても複数報告されている。ただし、耐風設計において、過去の観測実績や被害を背景とした風速算定から、将来の予測結果に基づく風速算定に移行するためには、多くの課題がある。気候予測データは多様な温暖化シナリオに基づき算定されるが、気候変動がどのシナリオに近い形で進行するかは不明であり、大きな不確実性をはらんでいる。安全側の評価とした場合には過剰設計のリスクがあり、建設コストの増大などの新たな課題が生じうる。また、気候予測の研究は日進月歩であり、最新のデータが5年程度おきに公開されることも珍しくない。これは、設計への反映を進める最中に、新たな知見やデータが構築されることを意味し、どの時点で規格などへ反映するかについての判断を難しくする。さらに、着実に進行する気候変動に対して、設計する構造物の設計寿命も鑑みながら、どの年代を想定して風速を設定するかといった難しさもある。

気候変動の影響を設計に適切に反映することは、将来の暴風災害に対する構造物の安全性・信頼性を維持する上で重要な課題である。一方で、その実現には気候予測の不確実性の考慮と設計上の合理性との両立が求められる。今後も、気象・気候学、風工学、構造工学などの技術者や学識者が連携し、科学的根拠に基づいた設計手法の高度化を進めていくことが期待される。

著者

北野 慈和/きたの よしかず
電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 主任研究員
2017年度入所、専門は土木工学・気象学、博士(工学)。

電気新聞 2026年8月26日掲載

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