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旬刊 EP REPORT EWN(エネルギーワールド・ナウ) 

旬刊EP REPORT EWN(第2167号)
デンマークCCS入札が佳境 政府が大型貯留を長期調達
厳格条件で事業者8割が辞退

デンマークでは2月4日、「CCSファンド」の最終入札が締め切られ、事業者による最終提案が提出された。最終提案は2件であり、化石由来CO2の回収・貯留(CCS)案件と、バイオ由来を含む大気中CO2の回収・貯留によるCO2除去(CDR)案件の組み合わせとなる公算が大きい。今後、当局による厳正な適合性審査を経て、順調に進めば4月頃の契約締結が見込まれる。

CCS案件については、セメント事業者のオールボー・ポートランドが提案主体として応札したことを公表した。CDR案件の詳細は未公表だが、事前資格審査を通過した候補事業者の構成を踏まえると、バイオマス熱電併給や廃棄物発電を対象とするCO2回収・貯留付きバイオエネルギー(BECCS)案件であると推測される。このように本ファンドは、CCSによる排出削減とCDRという性質の異なる取り組みを、同一の競争入札・補助契約の枠組みで支援する点に特徴がある。

予算規模は総額約287億デンマーク・クローネ(DKK・約6300億円)に上り、CCS・CDRを社会実装段階へと移行させる制度と位置付けられる。これは、先行するCCUSファンドおよびNECCSファンドにおける、2023~24年に計4件、年間約59万t規模のBECCS案件に対し、約105億DKK規模の長期契約が合意された実績を踏まえたものである。

本ファンドは30年以降、年間約230万t規模の貯留量確保を目標とする。仮にオールボー・ポートランドが掲げる年140万t規模の貯留計画が実現すれば、残余枠は約90万tとなる。この残余枠の大半をもう1件のBECCS案件が担うとなれば、その規模は従来のデンマークのBECCS案件を大きく上回る。CDRの中でも、北米などで空気直接回収・貯留(DACCS)への関心が高まる中、残余枠を担う大規模BECCSが提案されているのか、詳細の公表が注目される。

本ファンドの制度設計は、単発の補助金ではなく、競争入札を通じて貯留量を確保し、政府が事業者と長期契約を締結するものである。政府は、①提示価格に基づく個別単価(pay-as-bid方式)、②実貯留量に連動した支払い、③過補償を避ける財務規律、④交渉型手続きの組み合わせにより、コスト効率的かつ確実な貯留量の確保を図る(表)。

図

デンマークCCSファンドの制度設計

まず、事業者が1t当たりの単価を提示し、支援額は各事業者の提示価格に基づいて上限価格の範囲内で個別に設定される。政府が一律の単価を定めないのは、CCS・CDR事業は回収源や技術構成、立地条件などが案件ごとに大きく異なり、参照価格を設定しにくいためである。事業者にとっては、他の事業者が自身より低い価格を提示していても、自身の提示価格が適用されるため、適正に事業リスクを価格に織り込める。一方、政府にとっては、個別事情を反映した価格提示を求めることで、一律補償による過大支援を回避しつつ、コスト構造が入札を通じて可視化され、契約条件に反映できる。

次に、成果連動支払いとは、実際に回収・貯留が確認されたCO2量に応じて支払いが行われる仕組みである。支払いは貯留量の実績に厳密にひも付き、採択事業者は30~44年にわたり、契約に基づき毎年一定量の貯留が求められる。

過補償を排除する財務規律とは、当該事業によるクレジット収入などの便益を収益に織り込むことを事業者に義務付けるものである。これらを含めたプロジェクト全体の正味現在価値(NPV)がゼロを上回る場合は、提示単価の引き下げが求められる。支援額は事業成立に必要最小限にとどめられ、提示価格をそのまま契約価格とするpay-as-bid方式を採用しつつも、過補償が回避できる。

最後に、単純な価格オークションではなく、交渉型手続きが採用されている。事業者は初期提案後、デンマーク・エネルギー庁(DEA)との協議を通じて、技術構成、リスク分担、契約条件などを調整し、最終提案を示す。DEAは価格に加え、漏えいリスクや貯留地確保の確実性などを総合的に評価する。これにより競争性を担保しつつ、実績が乏しいCCS・CDR事業に内在する不確実性を制度的に調整する狙いがある。

ただし、こうした精緻な制度設計は、裏を返せば事業者への要求水準の高さをも意味する。大規模案件を含む2件の最終提案に至った一方で、応札数は事前審査を通過した10件から激減した。背景にあるのは、未成熟な市場環境と厳格な入札条件とのミスマッチである。KPMGの調査によれば、辞退した事業者の最大の懸念は「30年の貯留地確保の不確実性」である。制度上、貯留の遅延は支援の打ち切りや高額なペナルティに直結するため、事業者は自社で制御不能なリスクへの過度な責任を「管理不能」と判断した。加えて、価格上限や許認可を含む30年稼働開始というスケジュールの厳しさも、辞退の一因となった。

もっとも、今回の辞退はCCS・CDRそのものを否定するものではない。同調査では、辞退した全ての事業者がCO2貯留を引き続き戦略的に重要と位置付けている。大半の事業者が、主要な障壁が適切に解消されれば、1年以内の再入札への参加意向を示している。この制度と市場の間にあるギャップの解消が、デンマークにおけるCCS・CDRの本格的な社会実装を左右することになる。

著者

坂本 将吾/さかもと しょうご
電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 兼 社会経済研究所 主任研究員

旬刊 EP REPORT 第2167号(2026年2月21日)掲載
※発行元のエネルギー政策研究会の許可を得て、記事をHTML形式でご紹介します。

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