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LNT(しきい値なし直線)仮説について

しきい値無し直線仮説(Linear Non-Threshold : LNT仮説)とは?

放射線の被ばく線量と影響の間には、しきい値がなく直線的な関係が成り立つという考え方を「しきい値無し直線仮説」と呼びます。

 

確定的影響と確率的影響

放射線の人体への影響は、「確定的影響」と「確率的影響」の2つに分けけることができます。

このうち、確定的影響には主に高線量被ばく時に見られる障害で、脱毛を含む皮膚の障害や、骨髄障害あるいは白内障などが含まれ、それ以下では障害が起こらない線量、すなわちしきい値のあることが知られています。

一方、発がんを中心とする確率的影響ついては、1個の細胞に生じたDNAの傷が原因となってがんが起こりうるという非常に単純化された考えに基づいて、影響の発生確率は被ばく線量に比例するとされています。しかし、実際には、広島・長崎の原爆被爆者を対象とした膨大なデータをもってしても、100ミリシーベルト程度よりも低い線量では発がんリスクの有意な上昇は認められていません。これよりも低い線量域では、発がんリスクを疫学的に示すことができないということです。

 

なぜ「仮説」なのか?

このように確たる情報に乏しい低線量の範囲について、放射線防護の立場からリスクを推定するために導入されたのがLNT仮説です。低線量放射線の影響についてはよくわからないが、影響があると考えておいた方が安全側だという考え方に基づいたもので、科学的に解明されたものではないことから「仮説」と呼ばれています。

 

LNT仮説の問題点

各種の線量限度等を勧告している国際放射線防護委員会(ICRP)でも、「この仮説は放射線管理の目的のためにのみ用いるべきであり、すでに起こったわずかな線量の被曝についてのリスクを評価するために用いるのは適切ではない」としています。

それにもかかわらず、微量の被ばくに対してLNT仮説を用いてリスクが評価される場合が後を絶たず(*1)、このような情報を受け取った一般の方々に誤解を与え、放射線に対する恐怖感、不安感を助長する結果になっています。

 

低線量放射線研究からわかってきたこと

これまでの当センターを含めた多くの低線量放射線研究から、LNT仮説では説明できない事例が数多く見つかっています(*2)。また、当センターを含めた国内外の研究成果をとりまとめた「線量・線量率マップ」(*3)からは、放射線は一度に被ばくした場合と、少量ずつ時間をかけて被ばくした場合とでは影響が異なることも明らかになっています。このことは、放射線作業従事者が少量の放射線を何度も被ばくするような場合には、LNT仮説から予想されるよりも実際のリスクはずっと小さくなることを示唆しています。

 

*1 低線量放射線の発がんリスクに関連する報道について

*2 当センターの研究成果

*3 電中研ニュース401号「解明すすむ微量放射線の影響」

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