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社会経済研究所 コラム

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パリ協定脱退を巡る動向
−国連大使が”意向”通告 一転して残留可能性も−

電力中央研究所 社会経済研究所
 主任研究員 上野 貴弘

 トランプ大統領は6月1日の演説で、パリ協定からの脱退を表明した。その約2か月後の8月4日に、ヘイリー国連大使が協定脱退の「意向」を協定の寄託者である国連事務総長に通告した。

 この通告は将来的に脱退する意向を伝えるものであり、正式な脱退通告ではない。

 そして、表向きは脱退の意向を表明しているもの、使われている表現や行間からは、「一転残留」の可能性がにじみ出ている。以下では、この通告を読み解いていく。

 ヘイリー大使の通告には、①米国は協定脱退の権利を行使する意図を持つこと、②米国が再関与の適切な条件を特定できない限り、協定28条1に沿って、脱退通告が可能になり次第、正式な書面で通告することの2点が主に記されていた。

 一点目は、協定脱退が基本線であることを再確認するものであり、6月1日の大統領表明に沿ったものである。

 その上で、二点目に読み解くべきポイントが3つある。

 第一に、脱退方法として協定28条1を用いることに言及したことである。この条文によれば、締約国は協定発効時から3年後(19年11月4日)から脱退を通告できる。そして、通告の1年後に脱退が完了する。これに対し、28条3という別の条文には、親条約である気候変動枠組条約から脱退する場合は、協定からも脱退したものと見なすと規定されており、さらに枠組条約の脱退はいつでも通告できる状況にある。トランプ大統領の脱退表明はどちらの方法で脱退するのかを示さなかったが、今回の国連大使の通告は前者の方法を用いることを明確にした。枠組条約脱退は温暖化対策のあらゆる国際枠組みから手を引くことを実質的に意味し、他国から見れば、さらには米国自身にとっても最悪の帰結と言えるが、別の選択をすることを明らかにした点は、他国にとって悪いなかでも安心材料と言える。

 第二に「再関与(reengagement)」という言葉を用いた点である。トランプ大統領は脱退表明演説の中で、パリ協定または全く新しい取り決めに「再加入(reenter)」するための交渉を開始すると述べたが、再加入は「いったん抜ける」ことを前提とした言葉である。他方、「再関与」という言葉からは「残留しつつ別の条件での関与」というニュアンスも読み取れる。

 第三に「交渉」という言葉を使わなかったことである。脱退表明では、再加入の条件を他国と交渉するとしていたが、通告では、米国が適切な条件を特定できるかが、脱退を正式通告するか否かの条件となった。つまり、他国との交渉という意味合いを弱め、米国自身を主語とする一方的な表現に変化した。通告はその具体的内容に触れていないが、政権内の協定残留派は残留の条件として、オバマ前政権の削減目標(25年に05年比で26〜28%削減)の引き下げを求めている。また、パリ協定の下では一方的に目標を緩和できる。

 このように、脱退という結論は変わらないが、以前よりも一転残留の可能性が強くにじみ出た。通告と同時に発出された国務省の公電がメディアにリークされたが、そこには「協定の文言の再交渉や新合意の交渉を求める計画はない」と記されていた。また、パリ協定の詳細規則作りに加わるとも書かれていた。さらに、政権内の脱退派を主導したバノン氏が最近、大統領府の首席戦略官を辞任した。

 政権の動きは未だ予見可能性が低く、この時点では過度な予断は禁物だが、一転残留の可能性は以前よりも強まったように思われる。

電気新聞2017年9月6日掲載

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    2017年4月1日現在

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    2018年4月26日更新

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    2018年5月11日更新

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