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米国のパリ協定脱退の行方
−環境戦略の補佐官辞任 残留の道筋は不透明に−

電力中央研究所 社会経済研究所
 主任研究員 上野 貴弘

 トランプ大統領は昨年6月1日にパリ協定からの脱退を表明したが、協定の規定上、2019年11月4日までは脱退を正式通告できず、現時点では未だ協定の締約国である。

 6月の脱退表明まで、政権内部では残留派と脱退派の間で対立があったと伝えられていた。その結果として、大統領は脱退の意向を表明したが、同時に条件次第では残留(大統領の言葉では再加入)もありうるとの立場も示した。米国政府は残留のための条件を明らかにしておらず、最終的に脱退するのか、残留するのか不透明な状況が今も続いている。

 そのような中、大統領府でエネルギー環境の国際戦略を担ってきたジョージ・デイビッド・バンクス特別補佐官が2月13日に辞任した。米国の政治専門メディアであるポリティコが本人への取材に基づいて報じた内容によれば、2013年に大麻を使用したことを自己申告したことで、機密情報へのアクセスに必要なセキュリティークリアランスが更新されず、自ら辞任を申し出たとのことである。

 バンクス氏は政権内部で協定残留を支持していた人物として知られている。ブッシュ政権期に大統領府と国務省で環境政策を担当していたが、2016年の大統領選挙の際には早い段階からトランプ氏支持を表明し、現政権発足直後の昨年2月にエネルギー環境分野の国際戦略を担う大統領府のスタッフに就任した。

 協定残留派は昨年春頃、残留の条件として、オバマ前政権が掲げた目標(2025年に2005年比で26〜28%削減)の撤回と、化石燃料の利用促進に関連した譲歩を他国から引き出すことを検討していた。政権全体の化石燃料重視の姿勢を、パリ協定残留という選択肢にぎりぎりのところで結びつけようとする案だが、バンクス氏がこうした戦略を主導していたと見られる。

 報道によれば、バンクス氏は最近、有志国との間で「クリーンコール連盟」または「化石燃料連盟」を立ち上げて、高効率な燃料利用を国際的に推進することを企図していた。昨年11月のCOP23の際には、国務省の外交官がパリ協定の実施指針を交渉する一方で、バンクス氏は高効率化石燃料と原子力発電の役割に関するイベントを開催して講演した。パリ協定残留の可能性と化石燃料の利用促進の両面を、同時に追求していたと言える。

 米国の環境エネルギー政策を専門的に扱うE&Eニュースは、バンクス氏の辞任を惜しむ声が温暖化対策を巡る立場を越えて、産業界、環境団体、ジャーナリスト、外国政府など様々な関係者からあがっていることを報じた。トランプ政権下の難しい状況の中で様々な要素のバランスをとってきたことや、政権に批判的な環境団体やメディアにもオープンに接したことなどが紹介されている。

 このようにバンクス氏は政権の国際的なエネルギー環境戦略における現実的なバランスを追求し、政権に批判的な関係者も含めて、国内外の幅広い層からの信頼を得ていた。バンクス氏が大統領府を去ることで、パリ協定残留の道筋が一層見えにくくなることに加えて、様々な関係者との接点が弱まり、温暖化対策におけるトランプ政権の国際的な孤立傾向がさらに深まるおそれがある。

電気新聞2018年2月20日掲載

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