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米最高裁判事の退任表明
−排出規制の実施困難に 影響長期化の可能性も−

電力中央研究所 社会経済研究所
 上席研究員 上野 貴弘

 6月27日に米国連邦最高裁のケネディ判事が7月末での退任を表明した。同判事の退任は、今後の米国の温暖化対策に極めて大きな影響を及ぼしうる。

 最高裁は9人の判事で構成される。欠員が生じた場合には大統領が後任候補を指名し、議会上院の承認を得た場合に判事に任命される。任期は終身であり、逝去した場合や自ら退任する場合に欠員が生じる。

 これまでの判決の傾向から、現在の判事の立場は保守4名、中間1名、リベラル4名と見られており、多くの訴訟において、中間の判事の意向で多数意見が決まってきた。その判事がケネディ判事であった。

 ケネディ判事の判断は米国の温暖化対策の方向性を強く規定してきた。オバマ前政権は大気浄化法という既存法の権限を用いて、火力発電所や自動車に対するCO2排出規制を定めたが、これが可能となったのは、2007年に最高裁が同法の下で温室効果ガスを規制可能と決定したためである。保守4名とリベラル4名で意見が分かれたが、ケネディ判事が後者につき、規制可能との判断になった。

 他方、オバマ前政権の重要政策であった火力発電所へのCO2排出規制については、最高裁は2016年2月にその一時差止を認めた。このときも保守とリベラルの間で意見が割れたが、ケネディ判事は前者に同調した。差止は現在も有効であり、トランプ政権は規制緩和の手続きを進めている。

 ケネディ判事の退任後は保守4名とリベラル4名となり、後任の判事が保守的な人物となれば、全体のバランスが保守側に傾くことになる。トランプ大統領は後任候補の選定に速やかに着手するとの意向を示しており、保守的な人物を指名するものと予想される。

 他方、上院の承認には不確実性が残る。承認には過半数の賛成が必要であるが、共和党は定数100のうちの51議席を占め、全員が一致すれば承認可能である。しかし、同党重鎮のマケイン議員が病気療養中であることや、一部議員がトランプ大統領に批判的であることから、大統領が指名する人物次第では承認が難航する可能性がある。民主党議員からは11月の中間選挙の結果を待つべきとの意見も出ている。

 ただ、共和党は後任の任命に必要な条件を満たしており、保守的な判事が任命される可能性が高い。

 そうなると、温室効果ガスの排出規制を巡る訴訟が最高裁に上がった場合に規制強化を否定する判断が出やすくなる。温室効果ガス排出を既存法の下で規制可能とした2007年の判決を覆す判決もありうる。

 しかも、任期が終身であるため、その影響は長期にわたる。もちろん、更なる判事の交代でバランスが戻る可能性はあるが、保守的な判事は全員70歳以下である一方、リベラルな判事のうちの2名は80歳前後であり、当面はリベラルな判事の方が交代の可能性が高そうである。

 5対4の構図が定着すると、仮に2021年に政権が交代し、新政権がオバマ政権と同様の規制を既存法の下で定めても、最高裁で否定される可能性が高まる。

 ただし、保守的とされるロバーツ最高裁長官が年々、中間的な立場に近づいており、ケネディ判事に代わり、バランサー的な存在になるかもれない。

電気新聞2018年7月3日掲載

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