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欧米の国境炭素税構想
−選挙を契機に提案浮上 実現へのハードル高く−

電力中央研究所 社会経済研究所
 上席研究員 上野 貴弘

 国境炭素税は、温暖化対策をとっている国・地域が自国並みの対策をとっていない国からの輸入品に対して、炭素コスト分を関税に上乗せして課税するものである。自国の産業と雇用を温暖化対策が不十分な国から保護しつつ、そうした国に更なる対策を促すことがこの仕組みの狙いである。

 国境炭素税に国際的に関心が集まったことは、これまでにも何度かあったが、最近改めて、欧米で同時に関心が高まっている。その背景にあるのは、大西洋の両岸における選挙である。

 欧州では、今年5月に欧州議会選挙が行われ、中道右派と中道左派が議席を減らし、EU懐疑派、リベラル派、緑の党が議席を伸ばした。選挙後の新議会は、ドイツの国防相であったフォンデアライエン氏を欧州委員会の次期委員長として選出した。欧州委はEUの行政執行機関であり、委員長はそのトップである。

 フォンデアライエン氏は、議会での投票に先立って政治指針文書を提示したが、最初の項目が「欧州グリーンディール」と呼称する温暖化対策であり、その中で国境炭素税の導入を掲げた。議会の勢力分布が左右に幅広く分散する中で必要な票数を集めるには、リベラル派などの支持を得る必要があり、温暖化対策を最上位に位置付けたものと思われる。欧州グリーンディールの具体的内容は11月1日の就任から100日以内に提示するとしており、その際に、国境炭素税の提案も具体化される可能性がある。

 他方、米国では、昨年11月に連邦議会の中間選挙が行われ、下院の多数派が共和党から民主党に移った。選挙後に注目を集めたのはオカシオコルテス下院議員らが提示した「グリーンニューディール」である。この構想は、急進的な温暖化対策を通じて、著しい所得格差などの社会問題の同時解決を図るものだが、同議員らは、構想を示す決議案の中に「雇用と環境を強力に保護するための国境調整を講じる」との一文を盛り込んだ。「国境調整」という言葉が使われたのは、課税だけではなく、輸入業者に対する排出枠設定も念頭にあるためと思われる。

 来年の大統領選挙に向けて、民主党の候補者選びが始まっているが、一部の有力候補は、炭素国境調整を提唱している。人気面で先行する穏健派のバイデン前副大統領は6月に発表した気候計画の中で、気候変動対策が不十分な国からの炭素集約度の高い輸入品に対して炭素調整を課すとの考えを示した。二番手をうかがうリベラル派のウォーレン上院議員も7月に発表した通商政策の方針に、炭素国境調整を盛り込んだ。

 炭素税導入を提唱する保守派の一部が炭素国境調整を支持し、トランプ政権の大統領府で気候変動担当の特別補佐官を務めたバンクス氏も「炭素関税」に関する論考を発表するなど、議論は党派を超えつつある。

 国境炭素税が欧米で同時に導入されれば、世界、特に重工業の多いアジア地域に大きな影響が及ぶ。

 しかし、導入へのハードルは高い。欧米の中にも反対論が存在することに加え、WTOのルールに抵触する可能性もある。課税された国が対抗措置を講じれば、貿易紛争に発展する。税率の調整や輸入品に炭素排出量を紐付ける計算方法など技術的な課題も多い。

電気新聞2019年9月10日掲載

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