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コロナ禍と米の気候対策
−法案審議は一旦棚上げ 選挙後の動向は要注視−

電力中央研究所 社会経済研究所
 上席研究員 上野 貴弘

 新型コロナウイルス感染症が世界で拡大し、米国では90万人以上が感染した。こうした中、11月の大統領選挙に向けて争点化しつつあった気候変動対策への関心は低下傾向にある。

 当初、米国議会では、3月に気候変動が重要な争点になる見込みだった。上院では、3月上旬に、エネルギー天然資源委員会が超党派で取りまとめたエネルギー法案を本会議で審議していた。気候変動対策に資する内容が多く含まれていたが、代替フロン物質の削減を巡って膠着していた。下院では、気候危機特別委員会が3月中に政策提言を取りまとめる予定だった。

 しかし、新型コロナウイルスの感染者数が3月中旬から急増した。上院の法案審議は中断し、下院特別委の提言公表も延期され、緊急経済支援に焦点が移った。トランプ政権と議会の両党指導部の協議を経て、3月27日に、コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)が成立した。世帯に対する現金給付、失業保険の拡充、中小企業への雇用維持支援、連邦準備制度理事会(FRB)を通じた企業支援の財源、航空産業等への融資が盛り込まれた。

 CARES法の審議過程では、民主党の一部が、再生可能エネルギー支援や公的支援を受ける航空会社による排出オフセットを含めるように求め、他方、トランプ大統領は戦略備蓄への購入を通じた石油産業支援を要求したが、いずれも盛り込まれなかった。

 CARES法は緊急支援策に焦点を絞っており、収束後の景気刺激策には、別途の立法が必要となる。老朽化したインフラ再建への公共投資がその柱の1つになると見込まれ、民主党のペロシ下院議長は4月1日に、グリーンなインフラ投資による景気刺激策を速やかに取りまとめたいと表明した。上院の環境公共事業委員会は、昨年7月に気候変動関連の投資を含む運輸インフラ法案を全会一致で可決しており、一定の実現可能性はあった。

 しかし、4月も感染と失業が一層拡大し、CARES法による中小企業の雇用支援の財源が早くも枯渇した。緊急支援の追加立法が優先され、景気刺激策は5月以降に先送りされた。

 大統領選挙を巡っては、4月8日にサンダース上院議員が予備選挙からの撤退を表明し、バイデン前副大統領が民主党候補となることが確定した。13日には、サンダース氏がバイデン氏への支持を表明し、両氏は気候変動を含む6分野でタスクフォースを作ることに合意した。サンダース氏を支えたリベラル層の支持を得るため、同氏の急進的な公約の一部をバイデン氏が取り入れる可能性がある。

 新型コロナの影響で11月に開催予定だったCOP26が21年に延期されたが、バイデン氏が選挙に勝利すれば、新政権の下でCOPを迎える。バイデン氏は就任当日にパリ協定に復帰した上で、100日以内に主要排出国による気候サミットを開催し、削減目標の引き上げを求めると公約している。就任とCOPの時期が一致すれば、目標引き上げが世界的な焦点となりうる。

 しかし、選挙の行方は予断できず、仮にバイデン氏が勝っても、気候変動対策を直ちに強化できるかは、新型コロナの収束状況や、経済影響の深刻度次第であり、先行きは見通せない。

電気新聞2020年4月28日掲載

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