新聞・雑誌

2020.09.29

トランプ氏と気候変動ー化石燃料の推進は継続 単発的な削減策も視野ー

  • 気候変動

電気新聞グローバルアイ

 11月3日に行われる大統領選挙まで約1か月となった。世論調査では民主党候補のバイデン前副大統領が優勢だが、4年前の選挙では、大方の予想に反し、トランプ大統領が当選しており、情勢は流動的である。選挙結果は米国の気候変動対策を左右し、世界に与える影響も大きい。本連載では、これまでバイデン氏の公約を取り上げてきたことから、今回はトランプ大統領の方針を見ていく。

 トランプ氏は8月の共和党大会で「不公平なパリ協定を終わらせて、米国のエネルギー独立を実現した」「エネルギー開発を大幅に拡大して、エネルギー独立を維持する」と演説した。国産の化石燃料を重視し、脱炭素化を否定する立場を改めて鮮明に示した形である。再選されて2期目となっても政権の基本方針は変わらないと予想される。

 トランプ政権は17年1月の発足直後から、オバマ前政権による火力発電所や自動車等への排出規制を撤回し、緩い内容の代替規制に置き換える手続きを進めてきた。手続きに3年以上を要した規制もあったが、今年8月までに主要規制の見直しを完了した。

 政権2期目となる場合、トランプ政権は規制見直しへの訴訟に対応していく。一部の州政府や環境団体等が規制緩和を進めた省庁を提訴しているが、1期目が終わる来年1月20日までには訴訟は終結せず、2期目に持ち越される。

 裁判所が原告の主張を認めた場合、トランプ政権は判決に沿った対応を迫られる。ただし、主要な訴訟について最終的な判断を下す連邦最高裁は、トランプ氏による判事指名によって保守化する傾向にあり、トランプ政権に有利かもしれない。ギンズバーグ判事の死去に伴う欠員補充の行方も注目される。

 他方、トランプ氏は、9月8日に、選挙の激戦州であるフロリダ州を訪問し、同州等の沿岸における沖合油田・天然ガス田開発を一時的に禁止する覚書に署名した。国産化石燃料の推進方針に反するが、フロリダ州では観光や自然保護の観点から、党派を問わず、沖合油田・ガス田の開発への反対が根強いことから、選挙の勝敗を左右する同州有権者の支持拡大を狙ったものと思われる。この例のように、2期目においても従来の方針に反する施策を単発的にとる可能性はある。

 そうした施策が連邦議会から出てくることもありうる。この2年間、議会上院では、一部の共和党議員と民主党議員がエネルギー環境政策について、部分的な超党派合意を積み重ねてきた。電気自動車・燃料電池車の充電・燃料インフラ整備や二酸化炭素の再利用といった環境関連投資を部分的に含む「インフラ法案」や、エネルギー効率化、エネルギー貯蔵、二酸化炭素貯留・利用といった諸分野の取り組みを進める「エネルギー法案」等である。

 議会における超党派の部分的合意は、トランプ氏再選の場合に気候変動対策を少しでも進める手段となりうる。大統領には議会を通過した法案への拒否権があるが、超党派の合意を得た内容であれば、トランプ大統領も反対しづらい。

 国際的には、トランプ氏が勝利する場合、パリ協定からの離脱が、2期目が終了する25年1月までは続くことになり、協定の求心力への悪影響が懸念される。

電力中央研究所 社会経済研究所 上席研究員 上野 貴弘

電気新聞2020年9月29日掲載
*電気新聞の記事・写真・図表類の無断転載は禁止されています。

Back to index

TOP