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バイデン氏と電力脱炭素
−35年にゼロ排出を公約 政策手段はまだ見えず−

電力中央研究所 社会経済研究所
 上席研究員 上野 貴弘

 11月3日の大統領選挙の結果、民主党のバイデン氏が次期大統領に就任することが確定的となった。バイデン氏は米国全体の温室効果ガス排出を50年までにネットゼロとする長期目標を掲げ、電力部門については35年までに「炭素汚染を全廃」すると公約した。

 民主党の予備選中、バイデン氏は50年までに全量クリーンエネルギーを実現し、再エネだけではなく、炭素回収貯留や小型原子炉の技術革新も支援する方針を掲げた。他方、もう一人の有力候補であったサンダース氏は30年までに電力を全量再エネにするとした。

 バイデン氏の予備選勝利後、両者はタスクフォースを設置し、各分野の公約をすり合わせた。その際に折衷案として提示されたのが、35年に電力ゼロ排出を掲げつつ、その実現手段は「技術中立」つまり再エネだけではなく、原子力や炭素回収貯留など、全てのゼロ排出技術を含めるというものだった。

 目標を実現する政策手段として、バイデン氏はエネルギー効率化・クリーン電力基準(EECES)の導入を掲げた。公約はEECESの設計に踏み込んでいないが、ゼロ排出の電気の割合に関する基準を設定した上で、年々割合を高めていき、35年には100%にするイメージと思われる。

 しかし、EECESの実現は容易ではない。連邦議会を通じた新規立法が必要となり、可決に必要な票数を確保できないためである。EECESという仕組みには、民主党だけではなく、一部の共和党議員からも支持があるが、35年にゼロ排出という急進的な目標が前提になると、共和党議員の賛成は得にくく、民主党議員の一部も反対するだろう。これまでにも同様のアイデアが何度か浮上し、有力議員が法案を提出したが、実現しなかった。

 立法が必要となるEECESではなく、既存環境法の下で発電所に排出規制を課して、35年のゼロ排出を目指す方法もありうる。

 しかし、バイデン政権がそうした規制を導入すれば、訴訟に持ち込まれることは確実であり、連邦最高裁が規制を否定する可能性がある。オバマ政権は電力部門の排出を30年に05年比で32%減とすることを目指し、既存法の下で火力発電所への排出規制を導入したが、当時の最高裁は差し止めた。現在の最高裁は、トランプ大統領の判事指名で一層保守的になっている。

 このように35年ゼロ排出をそのまま制度化するのは難しいが、超党派の合意が成立する範囲で漸進的に脱炭素化を進める立法であれば、実現しやすい。

 たとえば、上院の環境公共事業委員会は、12月2日に共和党議員と一部の民主党議員の支持を得て、競争環境下で早期廃止のリスクに晒されている既存原子力発電所をクレジット方式で支援し、ガス火力代替による排出増を抑制する法案を可決した。この法案がそのまま単独で法制化する可能性は低いが、再エネ支援や電気自動車の推進などとパッケージ化すれば成立する可能性が高まる。

 また、独立機関である連邦エネルギー規制委員会の役割も重要であり、バイデン氏が指名する次期委員長の下で、先行する州のクリーンエネルギー政策を後押しし、再エネ電力を運ぶ送電線の認可を促進する構想も取りざたされている。

電気新聞2020年12月15日掲載

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