社会経済研究所

社会経済研究所 コラム

PDF版 グローバルアイ

米国2030年目標と議会立法
−民主党内の調整が難航 COP26に向け正念場−

電力中央研究所 社会経済研究所
 上席研究員 上野 貴弘

 バイデン大統領はパリ協定の下、「2030年に2005年比で50〜52%削減」との目標を掲げたが、その達成を左右するのは、議会で審議中の2つの法案―超党派の「インフラ法案」と民主党単独の「財政法案」―が成立するかどうかである。両方の法案に気候変動対策が含まれ、財政法案の審議では目標達成の前提となる施策が多数検討されている。しかし、執筆時点では、民主党内の調整が難航している。

 バイデン大統領は昨年の選挙戦中から一貫して、老朽インフラの再建や教育・医療・貧困・気候変動などの米国社会が抱える諸課題の解決のため、巨額の対策が必要との方針を示してきた。インフラ法案は主に老朽インフラの再建や一部の気候変動対策を扱い、財政法案は気候変動対策の大半と教育・医療・貧困への対策などを扱う。

 超党派のインフラ法案と民主党単独の財政法案という二本立てとなっているのは現在の議会情勢による。民主党は上下両院で多数派であるが、共和党との議席数の差は僅かで、立法には挙党一致が必要となる。民主党議員の中には、左派的な進歩派もいれば、急激な変化を望まない保守派もいる。双方への配慮が不可欠だが、保守派の筆頭格であるマンチン上院議員が超党派法案を必須とする一方、それだけでは進歩派の要求内容を満たせないことから二本立ての法案となった。

 インフラ法案は5年間で総額5,500億ドルの規模であり、8月には上院本会議を、民主党の全議員と共和党の一部議員の賛成を得て通過した。しかし、下院では、進歩派議員が財政法案に先行してインフラ法案を採決することを拒み、保留状態となっている。

 他方、財政法案は、総額、財源、内容を巡って、上下両院で民主党内の調整が難航している。最大の争点は総額である。進歩派は10年間で3.5兆ドルという当初案を下回ることはできないと主張する一方、マンチン議員はインフレ懸念等を理由に、1.5兆ドルに縮小したいとしている。両者の隔たりは大きい。

 総額が決まれば、対応する財源が必要となる。有力なのは、法人税率の引き上げ、企業の海外収益への課税強化、富裕層への増税である。また、民主党内の支持は限定的ではあるものの、上院財政委員会は、炭素税と炭素国境調整も財源の選択肢に含めている。

 3.5兆ドルから縮小することになれば、対策の内容を狭めることになるが、どのように削るのかは今のところ、全く見通せない。気候変動対策として、クリーンエネルギー・自動車への税控除、住宅断熱化・電化の消費者補助、エネルギー効率的素材の政府調達、低所得層への太陽光発電の導入支援等が検討されているが、これらの規模が縮小するかはまだ分からない。

 バイデン大統領が公約した2035年までの電力脱炭素については、その実現を目指す「クリーン電力支払いプログラム」を下院エネルギー商業委員会が財政法案に含めたが、上院エネルギー天然資源委員会の委員長を務めるマンチン議員は下院案に難色を示しており、大統領の公約と整合的な内容になるか不透明である。

 10月末には英国でCOP26が開幕する。米国が目標達成に向けた政策を間に合わせることができるのか、重大な局面を迎えている。

電気新聞2021年10月12日掲載

« インデックスに戻る

Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry