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社会経済研究所 コラム

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米国気候変動立法の行方
−カギを握る議員が反対 2030年目標の達成に暗雲−

電力中央研究所 社会経済研究所
 上席研究員 上野 貴弘

 バイデン大統領はパリ協定の下、「2030年に2005年比で50〜52%削減」との目標を掲げた。2030年目標の達成には、連邦議会で審議中の財政法案(選挙公約を冠し、ビルド・バック・ベター法案とも呼ばれる)の成立が不可欠と言われている。同法案には、クリーンエネルギー・気候変動対策に資する予算・税控除が5,550億ドル盛り込まれている。現在、議会上院では民主党がぎりぎりの議席数で多数派となっており、同党の議員が一人でも反対すると法案を可決できない。そのような中、民主党のマンチン上院議員が12月19日に「法案に賛成できない」との声明を発表して、法案成立が暗礁に乗り上げた。

 マンチン議員は民主党内の保守派として知られており、巨大な財政出動によるインフレの加速や法案が目論むクリーンエネルギーへの急速な移行に懸念を示していた。法案反対の声明でも「29兆ドル超の負債を生み、有害なインフレのリスクがある」「電力系統の信頼度へのリスクを高め、外国のサプライチェーンへの依存度を高める」「市場や技術が許容する以上の速度でエネルギーの移行を行うと、米国民に破滅的な結果をもたらす」と述べた。

 今回の声明が交渉の打ち切りを意味するのか、更なる交渉の余地があるのかははっきりしないが、マンチン議員は声明後にバイデン大統領に条件を提示したと報じられ、バイデン大統領も今後の交渉への期待に言及しており、来年も法案成立に向けた調整は続くと予想される。ただ、この声明で、法案成立の見通しは一層不透明となった。

 越年交渉を経ても、財政法案が不成立となれば、2030年目標の達成は実質不可能となる。プリンストン大学の研究グループの試算によれば、不成立の場合、2030年のCO2排出量は2005年比で30%減に留まるという。メタンやフロン系ガスなどの加速的な削減で温室効果ガス全体ではもう少し削減率が高まるかもしれないが、50〜52%減からは程遠い。

 法案不成立でも、バイデン政権には、既存法の権限を用いて排出規制を強化する道が残る。しかし、オバマ政権はこの方法による火力発電所への排出規制に失敗しており、壁は高い。しかも、連邦最高裁は10月29日に、既存法の下での排出規制権限の範囲を争う訴訟を取り上げると発表した。判決次第では、政府の規制権限は著しく制約される。

 法案が成立せず、既存法の下での規制権限も制約されると、2030年目標は大幅な未達に終わるとの見通しが立つ。それでも、一度掲げた目標を撤回することは政治的に考えにくく、また、パリ協定では目標達成が義務ではないことから、バイデン政権は2030年目標を維持すると予想される。連邦政府、州政府、自治体、民間企業、金融界の取り組みを総動員して目標達成を目指すという方針を提示し、実施可能な施策は打っていくが、目標達成の道筋は全く見えないという状況となろう。そして、他国は今回も米国に梯子を外されたとの不信感を抱き、世界的な脱炭素化の機運が削がれかねない。

 もちろん、財政法案が今の形で成立すれば、この最悪シナリオは回避される。バイデン大統領がマンチン議員の賛成を引き出すことができるのか、その手腕が問われることになる。

電気新聞2021年12月28日掲載

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