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社会経済研究所 コラム

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ロシアへのエネ依存脱却
−米英は輸入禁止で先手 EUは依存脱却を模索−

電力中央研究所 社会経済研究所
 上席研究員 上野 貴弘

 2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻した。深刻な国際法違反であり、国際秩序が根底から揺らいでいる。西側諸国はロシアの銀行を国際的決済網SWIFTから締め出し、ロシア中銀の外貨準備を凍結するなど、経済制裁を強めた。

 対露制裁を巡る議論で当初から難航したのがエネルギー分野である。EUは天然ガスのロシア依存度が4割を超えており、依存度が高いドイツを中心に、エネルギー分野での制裁が引き金となって供給途絶が起こることを懸念している。SWIFTからの排除に際しても、EUの懸念に配慮して、西側諸国はエネルギー取引に関わるガスプロムバンク等を排除しなかった。

 しかし、化石燃料輸出による収入がロシアの軍事侵攻を経済面で支えているとの批判は強く、米国議会では3月5日から6日にかけて、ロシアからの燃料輸入を禁止する案が超党派で取りまとめられた。この動きを受け、バイデン大統領は8日にロシアからの石油、LNG、石炭等の輸入を禁じる大統領令に署名した。

 米国は資源国であり、ロシア依存度が低いことから禁輸に踏み切れた。英国も国産資源を背景に、ロシアからの石油輸入を年末までに無くすと表明した。

 他方、EUは直ちに輸入を停止できる状況ではなく、供給途絶リスクへの対応とロシアからの依存脱却を「時間軸」を意識して進める方針を打ち出した。

 まず、EUの行政府である欧州委員会は8日に、天然ガスのロシア依存脱却に向けた政策案「リパワーEU」を発表した。短期的には、供給途絶リスクに備え、10月までに備蓄を確保しつつ、LNG等でロシア以外の輸入を増やす。暖房設定温度の引き下げや再エネ電力の導入加速による天然ガス需要の削減も狙う。他方、2030年に十分に先立ってロシア依存から完全脱却すべく、バイオメタンと再エネ水素を拡大し、2030年排出目標(1990年比55%減)の達成に向けて見込んでいた省エネ・再エネ・電化の取組を前倒しする。この点では脱ロシア依存と脱炭素の方向性が合致する。

 10〜11日に開催されたEU首脳会合は、加盟国のエネルギーミックスの選択権を考慮しつつ、リパワーEUで示された方向性に沿って、ロシア依存からの完全脱却を進めることに合意し、欧州委員会に5月末までに具体案を提示するように要請した。ただし、脱却時期は示さなかった。報道によれば、2030年、2027年、即時という3つの立場に割れたとのことである。

 時間軸は、米国でも争点である。即応的な制裁として超党派の支持の下、禁輸を決定し、バイデン政権は短期的には国内外の需要を満たすべく、石油・ガスを増産すべきとしている。

 しかし、中長期的には資源を梃子とするロシアの影響力を削ぐ手段として、脱炭素化を加速すべきか、化石燃料をさらに増産すべきかで意見が割れている。バイデン大統領は前者の立場を表明し、欧州と共有していると述べたが、共和党の意見は後者である。脱炭素化の加速に必要な法案の成否を握る民主党のマンチン上院議員は、ロシアの侵攻後に国産エネルギー拡大を優先すべきだと述べた。

 供給確保と脱ロシア依存に加え、エネルギー価格高騰への対応も各国で急務であり、困難な対応が続く。

電気新聞2022年3月15日掲載

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