社会経済研究所

社会経済研究所 コラム

PDF版 グローバルアイ

露産石油の上限価格構想
−禁輸に代わる制裁手法 価格高騰の回避を期待−

電力中央研究所 社会経済研究所
 上席研究員 上野 貴弘

 ロシアがウクライナへの侵略を開始してから、3カ月が経過した。ロシアの行為は深刻な国際法違反であり、国際秩序が根底から揺らいでいる。西側諸国はロシアに対して、中央銀行の資産凍結などの経済制裁を科している。

 経済制裁を巡って当初から難航しているのがエネルギー分野である。ロシアの輸出総額に占める化石燃料の割合は約半分であり、エネルギー輸出がウクライナ侵略を経済的に支えている側面は否めない。EUや日本はロシアの資源に依存しており、その禁輸は容易ではないが、G7の首脳は4月には石炭、5月には石油について、ロシアからの輸入を段階的に停止することに合意した。しかし、EUの中でハンガリーがロシア産石油の禁輸に反対し、執筆時点においてEUは方針を打ち出せていない。そして、天然ガスの脱ロシア依存は一層困難である。

 この状況を踏まえ、ロシアからの化石燃料、特に石油の禁輸ではなく、ロシア産の石油に上限価格を設ける案が5月中旬に急浮上した。具体的には、米国のイエレン財務長官が5月19〜20日に開催されたG7財務相・中央銀行総裁会議の機会を捉えて、この案を議論したと明かしている。

 上限価格が浮上した背景には、米・国務省で対ロシア制裁を担当したフィッシュマン氏らが『フォーリンアフェアーズ』誌に掲載した提言があると思われる。同氏の提言を踏まえ、上限価格構想を解説する。

 禁輸ではなく、上限価格を設ける狙いは、ロシアの収入最小化にある。西側諸国が団結して禁輸しても、制裁に加わらない非西側諸国がロシアからの購入を継続する。他方、西側の禁輸措置によって、国際的な原油価格は高騰する。輸出の物量が減った分が価格高騰で相殺され、結果的にロシアの収入があまり減らず、さらに悪いことに、価格の高騰で西側を含む消費国の経済が傷む可能性がある。

 そこで、禁輸で量を制御するのではなく、価格を制御する。ロシア産の石油に対し、生産等のコストを少し上回る水準に価格を設定することで、ロシアに生産維持の動機を働かせつつ、市場価格よりもかなり低くなることでロシア側の収入を削ることができる。

 その際、「二次的制裁」の脅しを併用する。二次的制裁とは、制裁対象国と取引する第三国の企業等への制裁のことであり、米国が頻繁に用いる傾向がある。このケースでは、第三国の企業が上限価格を超えて購入した際に、米国の金融機関との取引停止などの制裁を科すことが想定される。

 二次的制裁は禁輸とも組み合わせられるが、その場合、西側・非西側の両方がロシア以外の資源を奪い合う構図になり、原油価格が劇的に上昇するおそれがあり、ロシア以外の国々も深く傷つく。他方、上限価格との組み合わせであれば、価格高騰を回避しつつ、ロシアの収入を抑制することができる。

 もちろん、適切な上限価格はいくらか、取引の実務において価格制限をどのように実施するのかなど、運用上の課題は多い。ただ、ロシアによる侵略が長期化する中、エネルギー分野での制裁を効果的かつ持続的にすることは重要な課題であり、価格高騰を招きにくい上限価格の設定は一考の価値があると思われる。

電気新聞2022年5月31日掲載

« インデックスに戻る

Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry