電気新聞ゼミナール

2017.08.28

英国の送配電部門の料金規制における制度的目標の変化が示唆することは何か?

  • 電気事業制度

電気新聞ゼミナール(138)

【効率化を促したインセンティブ規制】

 英国の経験から学ぶ特集連載として、供給力確保(7月31日掲載)、小売部門(8月14日掲載)に続き、今回は送配電部門に着目する。

 送配電部門は自然独占性が認められるため、発電と小売部門の自由化後も、料金規制の対象となるが、英国ではインセンティブ規制である「レベニューキャップ」を適用してきた。この規制の下では、事業者の費用の上昇が物価上昇率以下になるように収入に上限値が設けられる。上限値は数年間維持され、その間、事業者は収入の上限と実際の費用の差を利潤として確保できる。このため、インセンティブ規制は、事業者に費用削減の強い動機を与える。導入後、実際に英国の送配電部門には一定の効率化がみられた。

【設備投資の抑制への対応】

 しかしながら、インセンティブ規制の下では、短期的な効率化を重視するあまり、設備投資や研究開発など成果が長期に及ぶ計画が軽視されかねない。この課題に対して、英国では当初、停電回数の低減等に関する品質目標を設け、目標を達成すれば報酬を収入の上限値に反映するという対応策を講じ、設備投資を促してきた。

 二〇〇〇年代後半になると、低炭素社会の構築に向けた動きが本格化し、北部の洋上風力を内陸の系統に接続する設備をはじめ、送配電部門は二〇二〇年までに約三二〇億ポンド(約四兆円)もの投資を要することが明らかになった。

 さらに、送配電事業者の収入は需要と共に減少が予想され、従来の規制方式では今後必要な投資の停滞が危ぶまれた。つまり、需要家の負担軽減に配慮しつつも、投資を着実に促すという、相反する目標が突き付けられたのである。

 そうした状況で英国の規制当局は、送配電事業のサービスについて、kwhのみでは測れない価値に着目し、「アウトプット」と呼び、送配電料金をその対価として捉え直した。「アウトプット」は、例えば、系統容量の拡充による分散型電源の接続や、間欠性のある電源の増加に際しても信頼度を維持することでもたらされる。これには、送配電事業者の支出増加を伴うが(図)、生み出される「アウトプット」が支出以上の価値であれば、現在および将来の送配電事業者のステークホルダーの理解を得られると考えたのである。

【将来の便益最大化を目指す料金制度】

 この考えを反映したのが2013年から導入されたRIIOという料金規制である。RIIOでは、レベニューキャップ(R)による効率化インセンティブ(I)を維持しつつ、イノベーション(I)やアウトプット(O)を重視する。具体的には、収入の上限値を、従来のkWhを送り届けるための費用に基づいてではなく、あくまでアウトプットに必要な費用に基づいて定める。重要なことは、料金に見合う価値のあるアウトプットの適切な設定であるが、そのためにRIIOでは、送配電事業者がステークホルダーとの対話を通じて、アウトプットを生み出す投資計画を洗練することを求めている。

 このような取り組みが、実際、将来的に想定された成果を生み出すのか、不確実性は大きい。しかし、英国の事例は、低炭素社会の構築に必要な設備投資を促すには、短期的な効率化を重視するのみならず、需要家の理解に配慮しながらも、将来の便益の最大化という観点を料金規制に反映する必要性があることを示唆している。

電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 主任研究員
澤部 まどか/さわべ まどか
2009年入所。博士(商学)。専門は産業組織論・競争政策。

電気新聞2017年8月28日掲載
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