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電気新聞 ゼミナール

ゼミナール (152)

発送電分離後の欧州の電力経営に生じた変化から何を読み取るべきか?

 前回の米国編に続き、今回は欧州の電力会社に焦点を当て、発送電分離後の電力経営の変化について述べる。

【発送電分離を契機とする事業の取捨選択】

 欧州の多くの国々においても、わが国や米国同様、電力会社はもともと垂直統合形態であったが、欧州指令に基づく電力自由化によって、発送電分離が実施された。その方法は国によって異なっており、送電部門の法的分離を求める国もあれば、所有権分離にまで踏み込んだ国もある。
 ここで興味深いのは、国の制度では法的分離による送電部門の子会社化が規定されているのに対し、経営者の判断で自発的に所有権分離を行った電力会社もあることだ。規制当局からの制裁逃れや、財政難に伴う資金調達など、その理由は事業者によって様々だが、もはや垂直統合形態にこだわることなく、戦略的にバリューチェーンの各事業を取捨選択しているのである。

【国際展開とエネルギー多角化の進展】

 もともと欧州では、電気事業は国営であった国が多く、自由化とともに民営化も進められた。その影響もあり、既存の電力会社は概して1社当たりの規模が大きい傾向がある。それに輪を掛けて、合併買収が国を超えて活発化し、大手電力会社がさらに巨大化していった点は、欧州の電気事業の特徴の一つと言える。各国内では最大級の事業者でも、欧州市場においてはまだ十分な大きさではないと判断し、規模の経済を追求したことや、複数市場への参入によってリスク分散を企図したことが、その背景として挙げられる。
 この様な国際化・巨大化は、ガス事業者でも生じた。さらに、電気事業者とガス事業者の相互参入も盛んになり、両事業の垣根もなくなった。エネルギー関連事業に特化した多角化も、欧州の大手事業者の特徴といえる。

【ポートフォリオ組替とドメインの再設定】

 各事業者はそれぞれの戦略に則り、電気事業のバリューチェーンや、新規進出地域・多角化分野を取捨選択し、事業ポートフォリオを組替えるが、それは1回限りのことではない。事業環境の変化に合わせて頻繁に行っている。ドイツのE.ONは、その顕著な事例と言える(図)。
 同社はもともと多様な事業を保有するコングロマリットであったが、自由化を契機にエネルギー関連事業への特化と国際化を積極的に進めた。その後も、送電事業の売却や米国からの撤退など、細かくポートフォリオを変更しているが、2016年には、再生可能エネの影響による卸電力価格の低下を背景に、火力等の従来型電源を切り離した。さらに2018年3月には、ライバル社であるRWEの子会社イノジーの株式を取得し、その配電と小売事業を獲得する代わりに、再生可能エネ事業のRWEへの譲渡を発表している。
E.ONは、配電と小売に専念する意思を示したといえる。

【求められる従来型にとらわれない変化】

 E.ONは極端な例だが、欧州の主な電力会社は自らの最適なポートフォリオを模索しており、もはや従来の垂直統合形態にこだわらない例も少なくない。わが国でも2020年の送配電分離を契機に、事業環境の変化が見込まれる。従来の形式にとらわれることのない変化への柔軟な対応も、電力経営に必要となるであろう。

電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 上席研究員
筒井 美樹/つつい みき
1994年入所。博士(政策研究)。

電気新聞2018年4月4日掲載

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