電気新聞ゼミナール

2018.05.02

原子力発電比率の違いは、日本経済や産業活動などにどのような影響を及ぼし得るのか?

  • 原子力
  • 経済・社会

電気新聞セミナール(154)

 経済産業省が2015年7月に公表した長期エネルギー需給見通しでは、2030年断面の原子力発電の電源構成比を20~22%程度としている。仮にこれが未達となった場合、我が国の経済にどのような影響が及ぶだろうか。本試算にあたり、以下を想定した。

【試算における想定】

 長期エネルギー需給見通しで想定するエネルギーミックスが達成された場合(2030年断面の原子力発電比率は22%と想定)を基準ケースとする。次に、2030年断面の原子力発電比率が、15%へと7%ポイント低下し、その不足分をLNG火力や再生可能エネルギー電源で補填した場合を、それぞれ、LNG補填ケース、再生可能エネ補填ケースとする。この両ケースにおける、対基準ケース比でみた実質GDPや業種別生産額、設備投資額、家計所得への影響を、当所の経済・エネルギーモデル群を用いて試算した。

【GDPの減少は2030年に2兆円以上】

 2030年断面の実質GDPは、基準ケースと比べ、LNG補填ケースで約2.5兆円、再生可能エネ補填ケースでは約2.7兆円減少する(図)。2017年の実質GDPは約531兆円であることから、この0.5%程度が失われることに相当する。この実質GDPの減少は、化石燃料の輸入増や、電気料金上昇を通じた物価上昇に伴う実質所得の減少がもたらす消費減、物価上昇により、国内価格が海外価格よりも高まることで国際競争力が低下し生じる輸出減や投資減等に起因している。なお、再生可能エネ補填ケースの実質GDP減少分がより大きいのは、化石燃料の輸入増よりも、FIT電源の買取費用の拡大による電力コスト増が大きく、物価上昇に繋がるためである。

【特に製造業で大きな影響】

 実質生産額の減少を業種別にみると、2030年断面の基準ケース比で、LNG補填ケースでは製造業で約3.0兆円、第三次産業で約1.7兆円、再生可能エネ補填ケースでは、製造業で約3.3兆円、第三次産業で約1.9兆円となる。いずれのケースにおいても、その影響は製造業で大きい。製造業を素材産業、機械産業、その他の3業種に分けて生産額の減少分を比較すると、エネルギー多消費である素材産業では両ケースで0.9~1.0兆円となる一方、機械産業の1.8~2.0兆円はこれを上回る。こうした結果は、輸出比率の高い機械産業が輸出減の影響を相対的に大きく受けることにより生じる。また、実質設備投資額の減少を2030年までの累計でみると、LNG補填ケースでは全産業で2.3兆円となり、そのうち製造業が1.7兆円を占める。再生可能エネ補填ケースでは全産業で2.5兆円のうち、製造業が1.9兆円と、生産額と同様に製造業でより大きな影響が現れる。

【一般家庭にも所得減の影響が波及】

 所得の代理指標である一人あたりGDPは、2030年断面で、両ケースで約2.1~2.3万円減少する。これを消費税の支払額に換算すると、一人あたり2か月分程度の負担感に相当する。
 現行のエネルギー基本計画で、重要なベースロード電源と位置付けられている原子力発電は、経済活動や国民生活を支える上でも大きな役割を担っていることが確認できる。

電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 主任研究員
浜潟 純大/はまがた すみお
2007年入所、専門はマクロ経済・エネルギー需要分析

電気新聞2018年5月2日掲載
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