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電気新聞 ゼミナール

ゼミナール (155)

卸電力市場の活性化のために、欧州はどのような制度を設けているのか?

 日本では、卸電力市場の活性化を求める動きを受け、市場に対する信頼を確保する観点から、インサイダー取引や相場操縦等の不公正取引の禁止規定が、2016年4月に「適正な電力取引についての指針(適取GL)」に導入され、日本卸電力取引所(JEPX)の取引規程でも関連する規定が整備された。一方、東京商品取引所(TOCOM)が開設予定の電力先物市場については、経済産業省の「電力先物市場の在り方に関する検討会」報告書(2018年4月)において、電力の特殊性や適取GLの規制を踏まえた商品取引所の業務規程の整備が提言された。
 これらの制度設計においては、卸電力市場の活性化が進む欧州での不公正取引規制として2011年10月にEUが制定した、「卸売エネルギー市場の健全性と透明性に関する規則(REMIT)」が参照されたが、異なる点もある。REMITの基本的な考え方を改めて整理し、今後の市場活性化のための制度上の課題を示す。

【市場に対する信頼の確保が目的】

 2003年の第二次自由化パッケージの制定を受け、欧州では電力・ガスの現物取引や先物取引の規模が拡大した。しかし、価格形成に必要な情報へのアクセスが不十分であるなど市場に対する信頼は確保されておらず、国により不公正取引に関する規制も異なっていた。取引所で取引される金融商品の不公正取引を規制するEU法は存在したが、電力やガスの現物取引、特に相対取引や店頭取引での不公正な行為に対する規定は未整備であった。
 第三次自由化パッケージの制定過程でも、規制が不十分かつ不統一であることが域内の卸エネルギー市場の今後の活性化を妨げるとして問題視されたが、対応には金融市場規制との調整が必要であった。REMITは、このような規制の穴を埋め、域内の卸エネルギー市場全体に対する信頼の確保を目的として制定された。

【市場や商品に対する幅広の規制】

 様々な取引に統一的な規制を行うため、REMITでは、規制の対象となる市場や商品を幅広に定義した。店頭取引やブローカー経由の相対取引に加え、直接の相対取引も規制の対象となる。また、電力の現物取引や先物取引に加え、容量市場も規制の対象に含まれる場合がある。

【不公正取引を包括的に禁止】

 適取GLやJEPXの取引規程では、不公正取引とされる行為の内容が具体的に定められている。これは、金融商品取引法での不公正取引規制にならったものであり、何をすると刑事罰の対象となるのか、その構成要件を明確にする必要があるとの考え方に基づく。これに対しREMITでは、ガイドラインや判断事例を通じた具体化が行われる一方で、どのような行為が禁止される「不公正な」取引であるのかという点については、幅広な規定が置かれている。

【誰の、どのような行為を規制するのか】

 日本の不公正取引規制は、電気事業法に基づくガイドラインや取引所の規則に基づくものであり、規制者による裁量の余地が残る反面、規制の名宛人となるのは電気事業者や当該取引所の市場参加者に限られる。一方欧州では、発電設備の停止状況を伝える情報プロバイダが、市場の需給や価格に影響を与えうるような情報を、その情報が誤りであることを知りうべき状況にありつつも報じたことが相場操縦と認定されたという事例が、4月に刊行されたREMITの四半期報告で報じられた。この事例は、相場操縦の名宛人を市場参加者以外に拡張するものであり、その是非にはEU域内でも議論があるが、市場への信頼を確保するために、誰のどのような行為を規制すべきなのかという観点から注目されている。
 日本での市場活性化の議論は、JEPXやTOCOM等の取引所での取引が話題の中心であり、規制も市場ごとに行われている。しかし、電力の取引自体は相対取引などの取引所以外での取引が占める割合も大きい。規制者による裁量の余地を狭めつつ、様々な市場での取引の規制を統一し、市場全体の信頼を確保するというREMITの趣旨を踏まえるならば、中長期的には日本でも包括的な市場規制を検討する必要があるといえる。

電力中央研究所 社会経済研究所 上席研究員
丸山 真弘/まるやま まさひろ
1990年入所 専門は電気事業法制度論

電気新聞2018年5月16日掲載

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