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電気新聞 ゼミナール

ゼミナール (156)

事業者の効率性分析に基づく欧州の送配電料金規制とは?

 システム改革以降も規制下におかれる送配電部門において、費用削減や設備投資の促進が喫緊の課題となっており、現在、送配電料金制度の見直しも議論されている。今回から二回連続で、わが国でも度々参照される欧州の送配電料金規制から、課題への対応策を探る。第一回は、費用削減に向けた効率化を促す制度を紹介する。

【各社の効率値を料金規制に組み込む欧州】

 欧州では、規制事業である送配電部門でも、擬似的な競争状況を作って効率化を促そうと、料金や収入のキャップ(上限)を事業者毎に決め、費用を削減した分の利益を認める「インセンティブ規制」の採用が主流である。中でも、業界全体の生産性変化率に加え、各社の効率値に応じて費用削減を促す仕組みを採用する国が多い。

【専門的な効率性分析の手法とその留意点】

 効率性分析には、一般に「フロンティア手法」と呼ばれる方法を用いる。各事業者のデータに基づき、少ない費用でより多くのサービスを提供する事業者を「効率的」と評価する。一方、非効率な事業者の効率値は、最も効率的な事業者(フロンティア)からの乖離率で計算し、乖離が大きいほど効率値は低い。例えば効率値80%は、費用削減余地が2割あることを示す。
 送配電事業に関しては考慮すべき要素が多く、計算が複雑なため、フロンティア手法の中でも包絡分析法(DEA)や確率的フロンティア分析法(SFA)などの専門的な手法が採用される(表)。ただし、DEAは極端なデータの存在によって結果が大きく変わり、SFAはサンプル数が少ないと結果が安定しないなど、それぞれの特徴により一長一短がある。同じデータでも手法によって結果が大きく異なることがあるので注意が必要だ。

【結果の説得力を高めるために工夫を凝らすドイツ】

 ドイツでは、送配電料金が割高であったことを受け、2009年から効率性分析を組み込んだ収入キャップ規制を採用している。制度の詳細は政令で定められており、例えば、効率性分析にDEAとSFAを併用することも明文化されている。これは手法によって結果が異なることを踏まえた対応である。
 効率値の計測に当たっては、まず費用の仕分けが行われ、事業者の努力によって削減可能な項目のみを効率性分析の対象としている。例えば、安定供給にかかる設備投資費用や、労使間の取り決めに基づく給与や退職金などの費用も削減不能費用と扱われる。
 配電事業者は800社以上も存在するが、このうち効率値計測対象は一定規模以上の200社程度である。2012年の計測結果では、効率値平均は約95%だが、ばらつきが大きく、十年間で22%の費用削減を前提とするキャップが設定された事業者もある。

【手法の特徴を踏まえ適用可能性の検証を】

 現在、わが国でも送配電事業者の効率化の取組状況について事後評価が行われているが、今後、諸外国の制度を参考にしつつ、評価方法の見直しも検討される可能性がある。その場合、欧州のような効率性分析まで組み込んだ仕組みがわが国に適するか否かについては、分析手法の特性や限界、また分析対象であるわが国送配電事業者の特徴などを踏まえ、慎重な検証が必要となるだろう。

電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 上席研究員
筒井 美樹/つつい みき
1994年入所。博士(政策研究)。

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電気新聞2018年5月30日掲載

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