電気新聞ゼミナール

2018.08.22

「重要インフラ」に対する外資規制は如何にあるべきか?

  • 電気事業制度

電気新聞ゼミナール(162)

 近年、欧州を中心として、送電や原子力発電といった重要インフラに対し、国の安全保障や公の利益などの観点から、自国以外の資本の参加を規制する外資規制の動きが見られる。以下、具体例を示しつつ課題を論じる。

【送電に対する事例】

 2018年7月、ドイツ政府は政府系の復興金融公庫(KfW)に、ベルギーの送電事業者Eliaがオーストラリアの投資ファンドIFMから取得するEuroGrid(ドイツ送電事業者50Hertzの持株会社)の株式(20%)を、同一条件で引き取ることを命じた。これは、IFMが中国国家電網(SGCC)に株式を売却することを防ぐためとされる。Eliaは4月にもEuroGrid株式(20%)をIFMより取得したが、これもSGCCへの株式売却の動きに対し、Eliaがドイツ政府の要請を受け、優先買取権を行使したものと言われている。
 ドイツは、2017年に外資規制の制度を見直し、送電等の重要インフラ事業へのEU域外からの資本参加を国の安全保障や公の利益の観点から審査し、必要に応じ制限や禁止を命じる権限を政府に与えた。しかしその対象は、法制上企業に対し一定の支配権を行使できる、25%以上の株式取得の場合に限られており、一連の動きをこの規制で止めることはできなかった。また、4月の株式取得で50Hertzの完全な支配権を確保したEliaは、さらなる株式取得は格付けの低下に繋がるとの考えを示していた。政府の対応は、KfWによる株式引取という奇策を用いたものであり、経済界からは「外資に開かれたドイツ」という印象を損なうものとの批判がある。
 SGCCは2012年にポルトガルの送電事業者RENの株式の25%を、2017年にギリシャの送電事業者ADMIEの株式24%を取得したが、事業規制が存在する中、電力の安定供給等に支障は生じないとして取得は承認された。
 英NationalGridのガス配送事業売却計画を受け、2016年9月に規制当局であるOfgemが示した見解でも、「事業規制に服す以上、経営主体が外資であっても問題なし」との考えが示された。

【原子力発電に対する事例】

 Ofgemが見解を示した前月、英国政府はヒンクリーポイントC原子力発電所に対する支援策の最終承認条件として、建設と運営を担当する事業者(NNB)の資本構成の変更を制限する旨を定めた。これは、NNBの中国資本をこれ以上増やさないことを目的とするものであった。
 政府はこの決定に合わせ、国の安全保障や公の利益の観点からの外資規制のあり方について検討を開始した。2018年7月に示された白書では、自由な外資参入を認めていた従来の立場を修正し、重要インフラ等を対象に、米国のような幅広の外資規制を導入するとした。今後の原子力発電建設への影響が注目される。
 米国でも、外資規制強化のための法案が成立したが、原子力発電所については、原子力法により、外国籍を持つ者や外国政府はライセンスを取得できない。原子炉の設計・製造や発電所の建設を担う者の多くが外資である中、冷戦期の規定を維持することには疑問の声も上がっている。NRCも廃炉後の使用済燃料の貯蔵は規制の対象とはならないといった解釈面での対応を行っているが、発電所自体の外資規制緩和については意見が一致していない。

【重要インフラを何から、なぜ、どのようにして守るのか】

 英TCIによる電源開発株式取得に対する中止命令(2008年)は、日本で外資規制が発動された唯一の例である。その際、大間原子力発電所の建設・運営に対する悪影響のおそれが理由の一つとされたが、OECDの円卓会議では、電事法や炉規法等の規制による対応が優先されるべきとの指摘があった。
 重要なインフラは誰から、なぜ守られなければならないのか、守る必要がある場合、その方法は何か。外資規制を考える際には、これらの原則を明確にせねばらない。TCIが内資のファンドであったならば、株式取得の動きに如何に対応すべきだったかを問う必要がある。

電力中央研究所 社会経済研究所 副研究参事
丸山 真弘/まるやま まさひろ
1990年入所 専門は電気事業法制度論

電気新聞2018年8月22日掲載
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