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電気新聞 ゼミナール

ゼミナール (171)

投資家への気候変動情報の提供のために企業がなすべきことは何か?

 近年、環境・社会・企業統治に配慮した企業への投資(ESG投資)が世界的潮流となる中、気候変動関連の情報に高い関心が寄せられている。米国においては、投資家が総会決議の形で気候変動情報の開示を求める株主提案を行う事例が見られるが、会社側からの反発もある。2017年11月には、米証券取引委員会(SEC)が、この種の株主提案が提出された米大手IT企業のAppleによる株主提案への対応に対する考え方を示した。
 以下、気候変動情報の開示に関する米国の事例を示しつつ、わが国の展望を論じる。

【気候変動情報開示への関心の高まり】

 主要国の中央銀行や金融監督当局等が参加する金融安定理事会が設置した気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、投資家の適切な投資判断を促すため、気候変動関連情報の開示を企業に求める提言(TCFD提言)を2017年6月に公表した。
 わが国では、経済産業省が「グリーンファイナンスと企業の情報開示の在り方に関する『TCFD研究会』」を2018年8月に設置し、ガイダンス策定に向けた検討が進められた。9月には、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、温室効果ガス排出に関する情報開示を行う企業を重視した投資を行う旨を示した。

【株主提案による気候変動情報の開示を求める動き】

 米国では、環境保護団体等に加え、公的年金基金を初めとする機関投資家による、気候変動情報の開示を求める動きが活発である。その手段として株主提案が利用されることもあり、その数は増加傾向にある。
 しかし米国では、SECの規則により、会社側の判断で特定の株主提案を総会議案から排除できる旨が規定されている。その中には「通常の業務運営」に関する提案も含まれている。

【米国での事例】

 2017年7月、米国の投資顧問会社が、温室効果ガス排出ゼロの達成可能性を評価した報告書を2019年中に準備することを求める株主提案をAppleに行った。これに対しAppleは、本提案は「通常の業務運営」に関する提案であるとして、総会議案から排除することの確認をSECに求めた。
 SECは2017年11月に、スタッフの見解という形で、Appleの方針を支持する回答を示した。SECは、「通常の業務運営」であるかは「提案の内容」と「業務への関与の程度」に鑑みて判断する一般論を示した。そして、「複雑な指示を含むものや、特定の時間枠あるいは方法を課すもの」は、「通常の業務運営」に該当し、議案から排除することができるという見解を示した。その上でSECは、温室効果ガスの排出ゼロに向けた報告書を「2019年末までに」作成することをAppleに求めたことが、「特定の時間枠あるいは方法を課すような場合」に該当するとして、本株主提案を総会議案から排除することを認めた。
 一方、2017年12月には、ESG投資推進NGOと資産運用会社が、石油関連企業であるChevronに対し、脱炭素化に向けてビジネスモデルを如何に変更するかを報告することを求める株主提案を行った。同社は当該提案を総会議案から排除する旨を求めたが、SECは除外するに足りる根拠がないとして排除を認めなかった。
 このように、現時点ではこの点に対するSECの判断は分かれている。また、これらの回答はSECスタッフの見解にすぎず、法的拘束力がない点にも注意が必要である。

【わが国において期待される対応】

 わが国でもESG投資の動きが急速に進む中、企業の対応が急がれている。2018年6月には、上場企業が守るべき行動規範として、金融庁と東京証券取引所がまとめたコーポレートガバナンス・コードが改訂され、開示すべき非財務情報として、「リスク、ガバナンスや社会・環境問題に関する事項(いわゆるESG要素)」が追加された。コードでは、正確でわかりやすく、有用性の高い情報の提供を企業に求めている。
 有意義な開示の実現のためには、企業と投資家との相互理解を深めていくことが重要であり、そのためにも建設的な対話を進めることが求められる。

電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 主任研究員
外ア 静香/とのさき しずか
2015年入所。専門は金融商品取引法、会社法。

電気新聞2018年12月26日掲載

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