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電気新聞 ゼミナール

ゼミナール (173)

リスクコミュニケーションの「成功」としての
「意思決定の質を高めること」とは?

 先の読めない将来の判断では、参考情報や適切な助言は有益である。人は本来、自らが自由に「選択」できることを望むが、疾病や災害時の行動など、責任を要する選択は不安を伴うため、それらリスク情報に係るコミュニケーションにより、各人の選択と意思決定を支援することは意義がある。では、より良い意思決定とはどのようなものであり、リスクコミュニケーションはどのような貢献をすべきだろうか。

【リスクコミュニケーションの成功とは?】

 1989年の米国研究評議会の定義では、「影響を受ける人々や関心を持っている人々の間で、関係する問題や決定の理解が深まり、関係者が入手可能な知識の範囲内で、的確に判断できる十分な情報があると満足している状態」の程度が成功の度合いとなる。自らが十分な情報を得て意思決定できると感じるか否かによって、リスクの受け止め方は異なる。決定過程への満足度は、当事者間の信頼だけでなく、決定の「質」自体も高める。

【より高度な意思決定様式の支援】

 たとえば医療処置に係る判断では、専門家である医師を信頼して任せることもできるが、自ら情報を入手して別の選択を探すこともできる。今日では両者を統合した、医師と患者がコミュニケーションを通じた「共考する意思決定」に進化してきている。
 一方、電気事業のリスクコミュニケーションは、原子力や環境など、複雑な社会的コンセンサスが必要な場面で用いられる。「科学的根拠」を重視した決定を事業者側が行い、その内容について「わかりやすく」説明する、すなわち市民の側は「信頼して任せる」形式をとってきた。
 もちろん、患者や親族として主体的に関わる医療と異なり、電気事業に関する判断に一般の個々人がどう関わるべきか、性質を異にする面はある。しかし、「自分たちの問題」と認識し、的確さと決定過程の満足度を求める市民が増えてきているとすれば、そうした人々の選択と意思決定を支援する共考型のコミュニケーション手法を採ることも考えるべきではないだろうか。

【自ら意思決定を望む人々の存在】

 当所で昨年2月に実施したインターネットによるアンケート調査結果では、自ら知る努力をして決定する【自己決定】と、社会的に影響力の大きい評価への【市民参加】に5割程度が同意した。また、全般に態度を保留した3割程度を除くと、【リスクベネフィット】と、【リスク忌避】に同意する人も含め、「リスクはゼロにならない」ことに6割が同意した。
 この結果は、一般の人々にリスク情報を伝えた結果、一時的に不安感が高まっても、継続的な対話の場が維持されるのであれば、相互に十分な情報を得たという信頼関係を再構築し、より質の高い意思決定が期待できることを示唆している。

【専門家の側がくみ取る努力を】

 リスクコミュニケーションは、ステークホルダーが的確に判断できる情報を十分に共有し、意思決定の質を高めることの支援にこそ用いられるべきである。そこでは、専門家自身が、不確かさに向き合い、多様な立場から寄せられる様々なシナリオへの懸念をくみ取って共考し、マネジメントに実装する想像力が試される。

電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 特別契約研究員
桑垣 玲子/くわがき れいこ
2016年入所。専門は環境やエネルギーに関するリスクコミュニケーション。博士(学術)。

図 科学技術に関する考え方

図

電気新聞2019年1月23日掲載

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