電気新聞ゼミナール

2019.02.06

米国における電化を巡る議論から学ぶべきことは何か?

  • 気候変動
  • エネルギー需要

電気新聞ゼミナール(174)

 米国では2年程前より、国立研究所から環境NGOまでの様々な立場から、電化をテーマとする報告書が相次いで公開されている。その背景を紐解いた上で、わが国への示唆を述べる。

【CO2削減や再生可能エネ導入が後押し】

 第1の背景は、CO2の大幅削減目標である。温暖化対策に積極的なカリフォルニア州や北東部の州を中心に、供給側低炭素化と省エネのみでは未達リスクがあり、電化による対策の深掘りも不可欠という認識が広まりつつある。加えて、普及済み技術のロックイン(固定化)問題―例えば給湯・空調設備の熱源転換が普及シナリオ通りには中々進まない実態―も踏まえると、2050年といえども時間的猶予はない。
 第2は、再生可能エネの導入拡大である。①電力の排出原単位低減に伴う電化の優位性向上という、従来から指摘されている理由の他、②需要側で蓄電・蓄熱等の電気利用技術を増やすことは電力系統の柔軟性を高め、変動性電源の利用拡大に資するという指摘や、③再生可能エネ拡大により浮上している電力事業経営のデススパイラル問題(系統需要減~固定費未回収の悪循環)を緩和する意味でも、ある程度の系統需要は必要との指摘も出てきている。
 第3は、電化関連・情報通信技術の進歩である。寒冷地用ヒートポンプ、蓄電池や運転制御システムを含むEVの技術進歩は著しく、ライドシェアに代表されるサービスモデルのイノベーションとの相性も良い。

【政策の見直しや需給構造の解明に着手】

 電化を進める上で克服すべき課題もある。
 経済性の面では、米国は現状で安価なシェールガスを享受していることも、電化推進への障壁の1つとなる。政策として推す以上、社会的な費用便益の見極めも必要とされる。
 対策面では、電力・ガスといったエネルギー源ごとに運用される省エネ規制は、各々の削減は促す一方で、トータルで見れば省エネでも電力増になる熱源転換の促進については、十分に機能しないことがある。実際に、省エネ政策に積極的な州では、規制や補助の細部を見直す動きが出始めている。
 電力設備の形成・運用面でも、新たな課題への対応が求められる。米国の電化シナリオ研究のレビューによれば、2050年の電力需要は現状の2倍前後になり、家庭・業務部門の暖房・給湯の大幅電化や運輸部門でのEV増を見込むものが多い。系統ピーク需要も、当面は水準が大きく変わらないが、2030年代に熱源転換の進展により冬季のピークが夏季を追い越し、増加の趨勢をたどるとの分析がある。再生可能エネ拡大も相まって、需給構造は複雑化することが予想される。

【わが国でも整合性の取れた議論を】

 翻ってわが国では「長期低炭素ビジョン」の柱として電化を掲げながらも、その推進に向けた動きは本格化していない。米国の背景事情は日本にもあてはまる点が多く、今後の検討への示唆に富む。
 第1に、温暖化対策の長期目標と実態のギャップを精査していく必要がある。電化による深掘りを前提とする以上は、それを阻む課題や解決策を検討していくべきであろう。ロックイン問題も考慮に入れて、早期の対策実施が望まれる。
 第2に、足元における電力需要の減少傾向への理解を深める一方で、将来の増加可能性も視野に入れておくという、2つの視点を併せ持つ必要がある。省エネ進展・人口減少等の趨勢をとらえつつ、需給構造変化への備えも求められる。
 第3に、供給側対策と需要側対策の整合性を確保していくことが望ましい。政策の関心は電力供給に向かいがちだが、電気料金の相対的上昇は熱源転換のバリアとなり、結果的に温暖化対策を停滞させるおそれがある。
 第4に、再生可能エネの主力電源化を見据えて電化の意義を再考することは有益だろう。供給側低炭素化と需要側電化による相乗効果だけでなく、系統の柔軟性向上も電化の役割に加わる。
 第5に、CO2・エネルギー費用削減以外の便益への理解も、技術戦略の観点では不可欠である。例えば、電化が生産性・利便性等の向上や、イノベーションを通じた経済成長をもたらすかを明らかにしていくことも重要である。

電力中央研究所 社会経済研究所
エネルギーシステム分析領域(兼)エネルギーイノベーション創発センター 上席研究員
西尾 健一郎/にしお けんいちろう
2002年入所。専門は省エネルギー対策やエネルギー技術の評価。

電気新聞2019年2月6日掲載
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