電気新聞ゼミナール

2019.07.17

電気事業者が海外投資家と向き合うために重要なことは?

  • 電気事業制度
  • 企業・消費者行動

電気新聞ゼミナール(186)

外﨑 静香  

 今年も6月の株主総会シーズンが終了した。わが国の株主総会の様子は年々変化しており、かつては会社が提案した議案が可決されるだけの「シャンシャン総会」であったが、現在では会社提案が否決される事例も見られるようになった。

【会社提案の否決事例】

 2018年の株主総会では、保育施設の運営を行うJPホールディングスや、生活に密着した産業への投資・育成を行う21LADYの取締役選任決議について、会社提案が否決され、株主提案が可決された。また、翌2019年6月に開催された株主総会では、開催前から世間を大きく賑わせたLIXILの取締役選任議案について、会社提案が一部否決された一方、株主提案は全て可決された。

【投資家における議決権行使行動の変容】

 日本の上場株式に投資する国内外の機関投資家が、その責任を果たすための原則を示したスチュワードシップ・コードが2017年に改訂された。従前は、機関投資家に対し、全ての保有株式について議決権を行使するように努めることを求めていたが、改訂ではそれに加えて、行使結果を、投資先企業毎・議案毎に公表することを求めるようになった。
 コードの遵守は任意であるが、既に250を超える国内外の機関投資家が受入れを表明している。わが国の株式市場では機関投資家の株式保有比率が高いことから、議決権行使に関して彼らの存在は大きい。このように、機関投資家が積極的に議決権を行使し始めたことが、近年、会社提案が否決される事例が見られるようになった一因と考えられる。

【議決権行使助言会社の影響力】

 スチュワードシップ・コードの改訂によって議決権を行使し始めた投資家の背後には、議決権行使助言会社の存在がある。機関投資家、特に海外投資家を中心に、投資先企業の分析に要する時間や人員の不足等を理由として、議決権行使助言会社の推奨意見に従う投資家も少なくない。世界的に有名な議決権行使助言会社には、米国のISSやグラスルイスがあり、わが国でも存在感を増している。両社はLIXILの取締役選任議案に対しても、取締役候補毎に賛否を表明した。両社とも、会社提案のほとんどに賛成推奨を出した一方、株主提案の半数以上に反対推奨を出していた。これは、取締役会の独立性や社外取締役の比率を確保するという形式的基準を重視した結果であると考えられている。

【最新事例から見る海外投資家行動の変化】

 先述のLIXILの事例では、株主総会時に同社株式の約40パーセントを海外投資家が保有していた。これまで海外投資家は、議決権行使の際、議決権行使助言会社の推奨意見に従う傾向が強いとされていたことから、本件もそれに沿った結果になると思われた。ところが株主総会前に、株主提案に賛成意見を表明する海外投資家が相次いだ。これらの投資家は、会社提案に反対した理由として、候補者の選定経緯に対する疑念や、株主との対話の不十分さを、株主提案に賛成した理由として、候補者の経営者としての適任性や、事業戦略への賛同を挙げていた。本件LIXILの株主総会は、日本株の議決権行使においても議案の賛否を自ら吟味する海外投資家が増えてきたという変化を示す、興味深い事例と言えるだろう。

【電力会社も海外投資家動向に更なる注目を】

 わが国の電力会社における海外投資家の株式保有比率は、上場会社全体に比べると低い傾向にある。しかし、過去に、ザ・チルドレンズ・インベストメントやアライアンス・バーンスタインといった海外投資家が筆頭株主になったケースや、現在、海外投資家の株式保有比率が40パーセントに近いケースもあることから、今後は海外投資家の保有動向を、より注視する必要があるといえる。
 LIXILの事例が示すように、海外投資家が議決権行使助言会社の推奨意見に頼ることなく、投資先企業の経営方針に関して独自の分析を行うこともある。そのため、英文での開示情報を拡充する企業について高く評価する声も挙がっている。このように、彼らがどのようなことを求めているのか、事前に十分な調査・分析を行った上で対応することが、これまで以上に重要となるであろう。

電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 主任研究員
外崎 静香/とのさき しずか
2015年入所。専門は金融商品取引法、会社法。

電気新聞2019年7月17日掲載
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