電気新聞ゼミナール

2019.10.09

行動科学やデータをどのように活用すれば、省エネサービスを改善できるか?(第1回) 郵送省エネレポート スマメを有効活用

  • エネルギー需要
  • 企業・消費者行動

電気新聞ゼミナール(192)

 情報提供を通じて、省エネ行動を促すとともに顧客との関係性を強化するサービスが注目されている。行動科学の知見を活用し、直感的反応による行動変容を促すことで社会的価値を生み出す仕掛けは「ナッジ」と呼ばれ、わが国でも検討が進められている。代表例は環境省「平成30年度低炭素型の行動変容を促す情報配信(ナッジ)等による家庭等の自発的対策推進事業」で、電中研もデロイトトーマツコンサルティング・東京電力エナジーパートナー・凸版印刷とともに参画した。以降3回にわたり家庭部門の成果を紹介するが、今回は、スマートメーター版ホームエナジーレポート(HER)実証を紹介する。

【他世帯との使用量比較は有効】

 HERは、電気使用量の特徴や省エネアドバイスをわかりやすく情報提供する郵送サービスであり、採用例は米国に多い。代表的コンテンツである他世帯使用量比較では、契約タイプや地域のよく似た省エネ的・平均的な他世帯と、月合計使用量を比較する棒グラフを提示する。これによって、周囲と同じ行動をとりたがるという一見合理的ではない人の行動特性である「同調性」に働きかけて、省エネ行動を促すと考えられている。
 実際にこの仮説に注目して1年間検証した結果、自世帯の前年同月使用量比較を郵送した2万世帯と比べて、他世帯使用量比較を郵送した2万世帯の方が高い省エネ効果が出現した(図)。同調性は、日本人を含め万国共通のメカニズムであり、行動科学に基づき情報をデザインすることの効果が証明された。
 他にも、郵送頻度や紙面量など、仕様の異なる計576種のHERを郵送した。例えば郵送頻度の比較検証からは、省エネ効果は毎月郵送時に高いが、費用対効果は3カ月に1回に抑えるほうが優れている可能性が示唆された。

【30分値データにより情報の幅が広がる】

 本実証では先進的な取組として、スマートメーターデータからHERを発行した。電気使用量30分値を用いることで、月別に加え、時間帯別・日別・曜日別・季節別など、多面的に使用量傾向を示せるようになり、使用量傾向の解説文章も自動生成できるようにした。郵送世帯へのインタビューでは、「(自宅の電気使用傾向を知る上で)これ以上のデータはない」、「どういう使い方かを教えてもらえるのはうれしい」など、好意的な声が聞かれた。
 一方で、郵送停止希望世帯も約2%存在した。それら世帯の属性や停止理由を分析したところ、省エネ余地が少ない少消費世帯はHERを紙の無駄と感じる傾向があることや、他世帯比較に不満を抱く人が存在することが明らかとなった。

【サービス化の課題】

 実サービス化に向けた課題として挙げられるのは費用対効果である。先行する米国と比べて、日本は家庭の電気使用量が少なく、省エネ余地も少ない。費用対効果を高める上では、多消費世帯のみに郵送する、郵送頻度を抑える、機器・設備のプロモーションも掲載し収益性改善の一助とする、といった手段が考えられる。デジタル化による費用抑制やコンテンツ高度化を検討していく必要もある。
 次回(10月16日)は、スマートフォンアプリ実証について紹介する。

電力中央研究所 社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域
(兼)エネルギーイノベーション創発センター 需要デザイングループ 主任研究員
向井 登志広/むかい としひろ
2013年度入所。博士(工学)。専門は省エネ・節電、行動変容、効果検証。

電気新聞2019年10月9日掲載
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