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電気新聞 ゼミナール

ゼミナール (195)

洋上風力発電の現実的な導入ポテンシャルの考え方と利用可能な海域は?

【洋上風力の導入ポテンシャルは莫大?】

 2019年4月に「再エネ海域利用法」が施行され、わが国でも洋上風力の導入に向けた本格的な取り組みが始まった。洋上風力の導入ポテンシャルは、環境省による調査(以下、環境省調査)に基づけば、わが国の周辺の海域で、最大約14億kWとされている。
 しかし、環境省調査と同法に基づく洋上風力の「促進区域」の対象海域は異なる。例えば、前者では陸地からの距離を30km未満としているのに対し、後者は領海(約22km以内)を超えない範囲である。そこで、同法に基づく対象海域の詳細な分析を加え、洋上風力の導入ポテンシャル評価の基礎データを提示する。

【促進区域の海域はどの程度か】

 当所では、地理情報システム(GIS)を用いて、わが国の周辺の海域を約500mのメッシュに分割し、自然条件や海域利用などのデータを整備することにより、促進区域の対象と考えられる海域面積を推計した。
 本推計では内水を含む領海を対象とし、同法が規定する6つの要件を踏まえて海域を抽出した。例えば、自然条件の要件については、同法に基づくガイドライン上の記載を踏まえ、年間平均風速が毎秒7.0m以上の海域を対象とした(環境省調査は同6.5m)。
 また、同法では航路への支障を及ぼさないことを要件としている。当所は、海上保安庁から自動船舶識別装置(AIS)を搭載した船舶(主に中型船以上が該当)の年間航行データを取得し、前述の各メッシュの中で、31隻/月、つまり毎日1隻以上が航行する海域を、主要航行ルートと想定し、対象から除外した。
 以上により、わが国の領海までの海域(約43万km2)から、促進区域の対象と考えられる海域を抽出すると、その約12%である5.4万km2となる。仮にこの海域全てに洋上風力を設置した場合、3億2200万kWと、環境省調査の約2割となる。
 なお、促進区域の指定にあたり、利害関係者との合意形成が必要となるため、実際に洋上風力が利用可能な海域は、更に減少することとなる。

【今後の導入ポテンシャル評価において何に留意すべきか】

 今後の評価においては、促進区域の対象となる海域から、漁業や主要航行ルート外の船舶、景観等を考慮する必要がある。
 例えば、漁業権が設定されている海域や、AIS搭載船が1〜30隻/月航行している海域は、前述の対象区域5.4万km2の約7割に相当する。実際には船舶数などにも依るため、その全てが利用不可とは限らないが、漁業権者による承諾や、海運業者との調整が必要と推察される。
 また、陸地に近い海域では、景観や騒音等による悪影響が懸念されるため、地域住民との調整が必要になる。例えば、徳島県鳴門市では、海岸から風車を見上げた際の角度を基準に景観影響を評価し、海岸線から810m圏内を「洋上風力事業の実施が不適なエリア」としている。しかし、わが国では、遠浅が続く欧州の北海等と異なり、離岸距離に応じて水深が深くなるため、陸地から離れるほど促進区域の対象となる海域は減少する。
 このように、促進区域の対象とした海域の中でも、促進区域の指定にあたり、利害関係者との調整に依存する海域が多くを占めている。そのため、今後の長期エネルギー需給の検討において、このような点を導入ポテンシャル評価に考慮し、現実的な導入目標の策定を行うことが重要である。

電力中央研究所 社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域 特別契約研究員
尾羽 秀晃/おばね・ひであき
2017年入所。専門は再生可能エネルギー。

電気新聞2019年11月6日掲載

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