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電気新聞 ゼミナール

ゼミナール (201)

イノベーション促進のための「DARPAモデル」は有効か?

 DARPAという米国の政府組織の名前を耳にしたことがあるだろうか。「国防高等研究計画局」と訳されるこの組織は、国防省が所管する研究開発投資機関である。ハイリスク・ハイリターンの研究開発に特化する独自の運営方式によって、衛星測位システム(GPS)やインターネット等の画期的技術を生み出してきたとされる。
 近年、DARPAへの関心が国内外で高まっており、わが国でも政府プログラム等で「DARPA方式」が参照される例が増えてきた。
 では、DARPA方式はイノベーション促進に有効なのだろうか。同方式をエネルギー分野において本格的に取り入れた「エネルギー高等研究計画局」(ARPA-E)の経験から見てみよう。 

【ブレークスルーを企図するARPA-E】

 ARPA-Eは、米国エネルギー省傘下の研究開発投資機関であり、エネルギー技術分野における革新的な技術進歩と国際競争力の向上をミッションとして2009年から始動した。エネルギー技術全般を対象とし、ブレークスルーが期待されつつも他の政府支援・民間投資が得にくいテーマに特化する。年間予算は200~300億円程度であり、過去10年間に800以上のプロジェクトを支援してきた。

【ハイリスク・ハイリターン案件への積極投資】

 ARPA-Eは、DARPAと共通する運営手法を多く取り入れている。まず重視されているのがハイリスク・ハイリターンなテーマへの積極的投資である。画期的なイノベーションを生み出すには大きなリスクを受け入れる必要があることから、失敗を許容し積極的にリスクを取ることを重視している。
 また、そのような投資を行うには外部から介入を受けない必要があるため、エネルギー省長官直属の組織として他部局から独立している。さらに、プログラム・ディレクター(PD)が純粋に技術的・市場的見通しに従って投資対象プロジェクトを選定するため、PDに大きな権限を与えている。PDは状況変化に応じて計画変更や予算の追加、場合によっては打切りさえ柔軟に実施できるよう、プロジェクト運営にも積極的に関与する。
 このようにARPA-EはPDに極めて重要な役割を与えており、PDは当該分野の深い専門性や起業経験を有した第一級の人材である必要がある。このためARPA-Eは人材登用についても強い権限を持つ。そして、常に新たなアイデアを取り入れブラッシュアップさせるため、PDの任期は3年間と限定するとともに、ピッチなどPD間での議論が活性化する仕組みを取り入れている。

【ARPA-Eへの高い評価】

 ARPA-Eの活動は10年に過ぎないこともあり、エネルギー業界を変革するような目覚ましい成果はまだ上げていないが、米国内でのARPA-Eへの評価は概して高い。この理由の一つは、実際に革新的技術や製造プロセスに挑戦するスタートアップが多数支援され、それを契機に大きく成長する例が増えていることがある。
 またもう一つの理由は、前述のようなハイリスク・ハイリターン研究に注力するための組織的・制度的な工夫が評価されていることである。例えば米国科学アカデミーが2017年に発表したARPA-Eに対する評価報告では、外部審査員の評価平均点が低いプロジェクト、言い換えると多くの専門家が困難と考えるプロジェクトに対しても、PDの判断に基づいて多くの投資がなされていることが、PD権限が機能している証左として高く評価されている。

【わが国でもハイリスク・ハイリターン研究の強化を】

 わが国では、基礎研究の弱体化が指摘されて久しい。リスクの高いテーマへの投資も低迷していると思われ、実際政府主導の研究開発プログラムを見渡しても積極的にリスクを取ることを明示したものは見られない。しかし、わが国が今後一層のイノベーションを求めるのであれば、ハイリスク・ハイリターン研究に、より明示的な役割を与え、研究開発ポートフォリオにおいて一定の割合を認めるべきではないか。その際には、DARPAやARPA-Eがつくってきた失敗を許容する組織文化やそれを支える制度的工夫は大いに参考になるだろう。

電力中央研究所 社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域 上席研究員
木村 宰/きむら おさむ
2002年度入所。専門は温暖化対策・イノベーション政策、博士(学術)

電気新聞2020年2月5日掲載

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