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電気新聞 ゼミナール

ゼミナール (202)

原子力発電所の長期運転を巡る議論の現状と課題は何か?

 筆者(長野)は、昨年5月の第3回に続き、本年1月に開催されたOECD原子力機関(NEA)の「原子力発電所の長期運転(LTO)」専門家会議第4回会合に参加した。本稿では、NEA等で進行中のLTOを巡る議論の動向と、その中で明らかになった課題について報告する。
 専門家会議は、有力な低炭素電源である原子力発電を、運転期間を長期化することで維持延命させることへの期待の下に、実際の寿命延長に係る経済的、技術的及び政策的課題を整理するために設置された。第3回会合で合意した目次案に基づき、第4回会合では、本年内に刊行を目指す最終報告書の内容の詰めを行った。

【「競争力ある新規電源」としての国際的な期待】

 NEAと国際エネルギー機関(IEA)は、共同で5年毎に改訂、刊行している「発電コスト予測」報告書の現行2015年版を本年中に改訂する予定である。両機関は、従来評価における新設モデルプラントと並んで、LTO(40年運転のプラントをさらに10ないし20年延長する場合)を評価対象に加えることとし、評価の前提条件やデータの提供を本専門家会議に求めている。LTOが市場環境下でも最も競争力ある「新規電源」であるとの期待感は専門家会議に出席した各国代表からも多く聞かれたが、IEAやNEA等の国際機関においても公式な認識として定着しつつあることは注目される。昨年公表されたIEA報告書「クリーンエネルギーシステムにおける原子力」などとも歩調を同じくする点も見逃せない。
 LTOでは、設備改修を伴わなければ資本費なし、運転維持費・燃料費は現行と同等となる。設備改修を施せば資本費が計上されるが、運転維持費・燃料費については低減も期待できる。新規電源としてのLTOは、資本費・運転維持費・燃料費がほぼ同等と、石炭火力のそれに類似したコスト構造を示し、総額ではその半分程度と安価であることが予想できる。

【運転期間は技術的妥当性によって判断】

 NEA法務部が2019年に刊行した報告書「LTOの法的枠組み」によれば、原子力発電プラントの運転期間について法的な定めのある国(日本や米国は40年、ロシアは30年など)、延長期間や更新回数に定めのある国(日本は20年を超えない範囲で1回、米国は20年で回数制限なし、ロシアは事案毎に判断)がある一方で、いずれについても安全上の義務を満たす限り制限がない国(仏、英、スウェーデン、スイスなど)がある。とくに更新回数について、同報告書が調査対象とした国で制限を課している国は、日本の他にはハンガリー(20年で1回)、スロベニア(10年ずつ2回)のみである。各国の現行制度を見る限り、原子力発電所の運転期間に定めはなく、安全上の技術的基準や要件を満たす限り運転を認めるとの考え方が主流であり、専門家会議での議論でも改めて確認されたことは、今回の成果の一つといえる。

【サプライチェーンや知的基盤の維持構築が鍵】

 専門家会議では、期待と同時に、LTOを成功裏に推進するための課題についても議論された。中でも、ベルギーやスイスのような比較的小さい国では、LTO遂行に必要なサプライチェーンが国内のみでは揃わない恐れがあるとの指摘があった。この点は、LTOが当該プラントの新規設置から40年を経て実施されるというタイムラグからも、軽視すべきでない課題といえる。
 同様のことは、LTO遂行に要する技術力を担う人的基盤やノウハウの確保、維持及び継承についても当てはまる。
 日本でも関西電力高浜発電所1、2号機ほか計4基で20年延長が認可されるなど、LTOが徐々に定着、実現しつつある。長期的な温室効果ガス排出削減などから、有力な低炭素電源としての原子力の維持と活用の継続が強く求められている状況は、日本も他の主要国と変わりはない。安全性確保が絶対条件であることは論を俟たないが、国際的な議論で指摘されたサプライチェーン等の諸課題への手当てに怠りなく、かつ法制度的な面でもより合理的な定めを探るなど、LTOの着実な推進と遂行を期待したい。

電力中央研究所 社会経済研究所所長 研究参事
長野 浩司/ながの こうじ
1987年度入所。専門はエネルギー政策・エネルギーシステム分析。博士(工学)

電力中央研究所 社会経済研究所 事業制度・経済分析領域 主任研究員
稲村 智昌/いなむら ともあき
2010年入所。専門は原子力政策分析。博士(エネルギー科学)

電気新聞2020年2月19日掲載

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