社経研DP

2011.08.12

原子力利用の停滞は電気料金にどの程度影響するか?―最適電源構成モデル(OPTIGEN)による分析―

  • エネルギー政策
  • 原子力

SERC Discussion Paper 11022

高橋 雅仁   永田 豊  

要約

 福島原発事故以降、原子力発電を基幹電源と位置付けてきた我が国のエネルギーシステムの方向性を見直す機運が盛り上がっている。今後の原子力開発について、国民的な議論が必要であることは間違いないが、代替電源の経済性や産業競争力への影響、温暖化政策との整合性、供給力の安定性、エネルギーセキュリティ、社会的受容性など多面的な評価をした上で、エネルギーシステムの方向性を選択すべきであろう。  
 著者らは、原発の新設計画の進捗に着眼して、今後あり得る3つの我が国の原子力シナリオ―①新設計画通り、②新設計画の10年先送り、③新設・建て替え中止―を作成し、各シナリオでの電源構成変化に伴う長期的な発電コストや電気料金変動についての定量評価を行った。評価した対象地域は9電力会社大、対象期間は2010-2030年度である。なお、本稿では、福島第一・第二以外の既存原発は、必要な安全対策を実施した上で、運開から経年40年まで使用可能と仮定した。  
 また、本稿では、今後発生し得る発電コストの上昇要因として、(1)原発代替の火力電源のコスト(新規建設費、燃料費)、(2)新設原発の追加的な安全対策コスト、(3)太陽光発電の導入コスト、の3点を考慮した。  

● 原発新設の中止が発電コストや電気料金へ与える影響  
 福島第一・第二全10基の廃炉や全ての原発新設の中止によって、2030年度の年間発電コストは1.7兆円(約17%)増加する。発電単価では1.85円/kWh増となる(シナリオ③の場合)。この発電コスト増によって、電気料金(家庭・小口・大口を含めた全体の平均値)は約10%上昇する。   

● 原発新設の中止に伴う電源構成とLNG消費量の変化  
 原発代替電源として、発電コストの面では石炭火力発電が望ましいが、CO2排出量の抑制の面ではLNG火力発電が望ましい。今後も、電力のCO2排出原単位の抑制を目標とするならば、石炭火力発電ではなくLNG火力発電が新設原発の代替電源として選択される。  

 福島第一・第二全10基の廃炉と全ての原発新設の中止によって、原子力発電比率は23%(2020年度)、14%(2030年度)まで低下してしまい、2030年度時点の発電電力量に占めるLNG火力発電の割合は50%まで拡大する(シナリオ③の場合)。同年度のLNG消費量も現状(4千万トン弱)の2倍の8千万トン弱に増える。これだけLNGへの依存度が高まると、エネルギーセキュリティ上の問題が出てくる可能性があるだろう。

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