社会経済研究所

ディスカッションペーパー

分散型社会像に関する一考察 ―コロナ後の暮らしや社会の姿―

  • 中野一慶、浜潟純大、西尾健一郎、永井雄宇、田頭直人
  • SERC Discussion Paper 20004
  • Date:2020.9.17
   

要約

 新型コロナウイルス感染症の収束はいまだ見通せない中、オンライン利用の拡大やテレワークの普及等を含めた社会・経済的影響の一部が定着することで、その収束後にも人々の暮らしや社会の姿が大きく変化していく可能性が指摘されている。「コロナ後」の社会像への関心は高く、従来よりも分散した社会像が志向されるのではないか、との論考が多く見受けられる。社会像を規定する集中・分散という対立軸は、都市構造やライフスタイル等に広く影響し、大きく方向性の異なる社会の姿を導くことから、これまでも重要な軸として用いられてきた。しかし、分散型の社会像も、その描かれ方は一様でない。
 そこで本稿では、過去に提示された将来の社会像に関するサーベイを行い、集中・分散という社会像の軸がどのように議論されてきたかを明らかにする。また、それら社会像において、コロナ前から重要なトレンド変化があり、今後も社会構造に大きく影響を及ぼす要素(シェアリング、働き方、モビリティ)がどのように論じられたかを整理する。その上で、既往事例やメガトレンドを踏まえてコロナ前から著者らが検討を進めていた集中型および分散型社会像のうち、分散型社会像について取り上げ、今後の暮らしや働き方、産業の長期的な姿について検討を深堀りする。さらに、コロナ禍が上記の要素や社会像に及ぼす影響について考察する。将来の不確実性は大きいとの前提に立てば、対極にある集中型社会像の検討も重要であるが、分散型社会像におけるエネルギー利用の姿がこれまでの社会と大きく異なると想定されることからも、その考察を深める意義はある。
 既往文献として、将来の社会像を描いた国内外の近年の事例から、できるだけ社会の構成要素を網羅的に描いているものを取り上げた。それら事例で提示された社会像では、一部の勢力に権限や影響力が集中する社会か、多様なプレーヤーの影響力が増す社会か、という対立軸(権力構造の集中・分散)の他、都市に集中する社会か、地方に分散する社会か、という対立軸(空間構造の集中・分散)が見られた。一部の既往事例に見られるように、空間構造が分散した社会像を、活動の中心が地域のコミュニティにとどまる姿として描くと、生活の不便さを甘受し、活力や機会に乏しい姿になりかねない。しかし、デジタル化の進行を考えれば、地方や郊外に分散しても、技術によって様々な制約を緩和し、人々の活力を引き出すことのできる、住みよい社会像を描くことも可能なはずである。
 著者らが提示する社会像では、時間的、空間的制約に縛られず、暮らし・生き様を自ら選ぶ価値観が主流となる。その結果、デジタル技術の普及や制度的バリアの解消にも支えられ、住まいや働き方の自由度が増し、都市集中が緩和する姿を描いた。また、人々を取り巻く制約が緩和されることで、自助努力の重要性が増すとともに、個人を含めた多様なプレーヤーの活動が活発になり、影響力を増す。その意味で、空間構造と権力構造のいずれもが分散した社会像として整理できる。
 同社会像では、アイデア創出の場としての都市の重要性は残るものの、テレワーク等の普及により、職場の通勤圏に住む必要はなく、地方・郊外に住みながら、遠隔で働くスタイルが普及する。都市集中の緩和は、都市内での旅客大量輸送の必要性を低下させ、個別輸送機関のシェアリングサービスの普及につながる。また、スキルを活かした請負労働をフリーランスで行う人も増えると、テレワークの普及とも相まって、複数の仕事や生活拠点を掛け持ちするライフスタイルも普及する可能性がある。複数拠点化は、空家等を活用したシェアハウスの普及を促す。ライフスタイルの多様化は、それを支えるサービス産業の発展を促し、産業を牽引する。一方、シェアリングの普及は、自動車販売や住宅建設等の減少を通じて、エネルギー集約的な素材産業の動向の不確実性を高める可能性がある。
 さらに、コロナ禍が上記で抽出した要素に及ぼす短期的な影響や、長期的に分散型社会像に及ぼす影響について、以下のように考察した。
(1)シェアリング:感染予防意識の高まりや外出控えにより、モビリティやモノ、スペース等、物的資産を用いた接触を伴うシェアリングサービスは、短期的には苦戦する面がある。他方、スキル等を含めた広義のシェアリングはコロナ禍で加速してきており、今後は経済的ダメージからの回復過程において、節約を動機とする共有も拡がることが考えられる。
 共有に対する制度的・心理的バリアが解消されることやデジタル化の加速は、長期的に見てもシェアリングサービス全体を前進させる可能性がある。モノの活用率が上昇する環境が整うと、初期費用の高い省エネ・CO2削減技術の普及バリアを取り除き、脱炭素化を加速させる要因になりうる。
(2)働き方:コロナ禍を契機として、テレワークが期せずして広く実施される中で、これまで都市で行われてきたタスクの一部は、その場での対面コミュニケーションを必要とするとは限らないという気付きがあった。各種調査の結果からも、テレワークを経験する人が増えることにより、自らの生活を見つめなおす人が増える契機になると考えられる。
 長期的には、コロナ禍で進んだテレワークが定着すること等で、分散型社会像で示した柔軟な働き方につながる可能性がある。
(3)モビリティ:テレワークやオンライン会議の拡大は、都市部やそれぞれの地域の中心部への通勤需要を減らし、買い物や診療のための人の移動も減る。経済活動の低迷は貨物需要を減少させる一方で、オンラインショッピングの広まりは、貨物需要の増加要因となる。
 長期的には、移動の減少により、想定よりも利用率が低下する交通手段の維持管理は厳しさを増し、不確実性が高まることで、分散型社会像で示した小回りの利く移動サービス手段が求められるようになる。そうしたニーズを満たすのが、シェアリングサービスの興隆や自動運転技術の進歩と相性の良いEVである。その実現性を左右するものとして、蓄電池の技術革新や充電インフラ整備の動向が重要性を増していく。
 ただし、コロナ禍の影響については不確かな部分も多く、本稿で検討した社会の姿は、コロナ後に実現する唯一の社会像であると主張するものではない。例えば、地方への分散が実際にどの程度進むかは、今後継続的な観察が必要であろう。都市における人口密集とパンデミックリスクのトレードオフは、人類が度々経験してきたことであり、集中することの効率性にリスクを凌駕する誘引力があることは、歴史が語るところである。テレワークの普及についても、技術・慣習・制度面等を含めた障害があるのが実情であり、今後の動向を注視する必要がある。
 本稿は今後、コロナ後の社会像やエネルギーの在り方についての議論を深めるための材料として活用していきたい。

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「社会経済研究所 ディスカッションペーパー」の記載において、意見にかかる部分は筆者のものであり、電力中央研究所又はその他機関の見解を示すものではありません。

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