社会経済研究所

ディスカッションペーパー

ロシアによるウクライナ侵略を踏まえた
西側諸国のエネルギーを巡る対応
―国際秩序の維持とエネルギー政策のトレードオフ―
(2022年7月5日版)

  • 上野 貴弘、丸山 真弘、堀尾 健太
  • SERC Discussion Paper 22005
  • Date:2022.7.5
   

要約

 2022年2月24日、ロシアがウクライナ侵略を開始した。ロシアの一連の行動は深刻な国際法違反であり、国際秩序が根底から揺らいでいる。西側諸国はロシアの銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から締め出し、ロシア中央銀行の外貨準備を凍結するなど、経済制裁を速やかに強めたが、エネルギー分野での制裁は当初から難航した。エネルギー資源はロシアの輸出額全体の約半分(2021年時点)を占めており、米国等は速やかに禁輸を決定する一方、EUは天然ガスのロシア依存度が4割を超えるなど、ロシアに依存している国々が即時には依存脱却できないためである。ただし、西側諸国の間では、可能な燃料から禁輸を行いつつ、ロシアへのエネルギー依存度を段階的にゼロに近づけていく方向性が明確に示されている。
 これに対し、ロシアは、パイプラインガスへのルーブル建て支払いの要求、要求に応じなかった一部の欧州諸国への天然ガス供給の停止、ノルドストリーム1パイプライン経由の天然ガス供給の削減など、EU側の依存度が高い天然ガスを標的とする措置を追求している。また、6月30日には、サハリン2の財産譲渡を目的としたロシア大統領令が発出された。
 本稿は、ロシアによるウクライナ侵略を踏まえた西側諸国のエネルギーを巡る対応(2022年6月30日時点)を整理した上で、エネルギー政策への示唆を考察することを目的とする。
 西側諸国は、一部または全部のロシア産燃料の禁輸、ロシア産燃料への代替策の確保、備蓄放出による原油価格の抑制、エネルギー価格高騰への対策等を実施・検討している。特に代替策の確保においては、各国のエネルギー事情を踏まえ、国・地域ごとに時間軸に沿った対応を検討しており、EU、特にドイツではロシアによる天然ガス供給削減への対応が喫緊の課題となっている。また、最終的な脱炭素化の方向性は維持しつつ、中長期的な代替策の確保において、脱炭素化と整合的な形での脱ロシア依存を追求しようとしている。
 従来、エネルギー政策の基本的な目的は、@経済(economy)、Aエネルギー安全保障(energy security)、B環境(environment)という「3つのE」であり、様々なエネルギー源を組み合わせて、3つの目的をバランスさせてきた。ロシアによるウクライナ侵略を踏まえ、国際法の重大な違反を許さないという「法の支配に基づく国際秩序」を守る観点から、西側諸国は一部のエネルギーの禁輸を実施し、脱ロシア依存を追求しているが、その過程で「エネルギー政策の3つのE」との間のトレードオフに直面している。また、部分的にはシナジーの可能性も出ている。具体的には、経済面では、エネルギー価格の高騰に伴う経済への悪影響というトレードオフ、エネルギー安全保障面では、代替策が整わない中で禁輸・脱ロシア依存に踏み切ると、あるいはロシア側が制裁への報復として一方的に供給を削減または遮断すると、エネルギー需要を満たせず、危機に陥りかねないというトレードオフ、環境面(脱炭素化)では、石炭火力への回帰が起きる場合のトレードオフと再エネ・原子力・省エネが代替策になる場合のシナジー等である。
 禁輸・脱ロシア依存によるロシア側の収入減少効果は燃料間で一様ではなく、ロシア側が他の販売先により高値で燃料を売却できれば、逆に収入が増えるリスクもあることから、それぞれの燃料取引の特徴を踏まえて、ロシアの収入を最小化する形で、禁輸・脱ロシア依存を遂行するべきである。その際、“3E”とのトレードオフをどこまで受け入れるかが難題であり、国民がエネルギー価格の高騰をどこまで支持できるのかも課題となる。また、ロシア産石油の輸入に対する上限価格構想等の、ロシアの収入を減らしつつ、それ以外の国々における経済面でのトレードオフを抑制する手法の検討も必要である。国際秩序が大きく壊れれば、日本の安全保障にも影響が及び、エネルギー面に限っても、紛争の増加やシーレーンの不安定化によって、エネルギーコストが増加し、さらにはエネルギーを海外に依存することすら困難になる可能性もある。国際秩序が維持されることで、エネルギーに限らず、経済・社会活動が支えられることを認識した上で、トレードオフに向き合う必要がある。

※本ディスカッションペーパーは、「ロシアによるウクライナ侵略を踏まえた西側諸国のエネルギーを巡る対応―国際秩序の維持とエネルギー政策のトレードオフ―(2022年6月20日版)」(SERC Discussion Paper 22004)に対して、その後の動向を反映する目的で、主に以下の加筆を行ったものである。
・2022年6月28日のG7首脳コミュニケ(13頁)
・ロシアによる欧州向け天然ガス供給の停止・削減の動き(14〜15頁)
・サハリン2の財産譲渡を目的とした大統領令(16〜18頁)
・ロシアを原産地とする石油を使用して第三国で製造された石油製品のEUへの輸入に関する欧州委員会の見解(22頁)
・ウクライナ・ルーマニア間の電力取引開始(42頁)
・ドイツにおける天然ガスの供給確保のための措置及びガス緊急計画(52〜56頁)
・米国バイデン大統領の”Gas Tax Holiday”提案(66頁)
・エネルギー安全保障上のリスク顕在化(82-84頁)
・ドイツ、イタリア、オランダ等における石炭火力の稼働増加見込み(87頁)
・G7サミットにおける天然ガス部門への公的支援の扱い(87頁)
・G7首脳コミュニケにおける上限価格構想(97頁)、上限価格構想の課題(98頁)

また、要約にロシアの動きを加筆しつつ、本文の「1-1 EUの対応」及び「1-2 ドイツの対応」について、頁の順序を時系列からテーマ別に変更した。

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免責事項

本ディスカッションペーパー中、意見にかかる部分は筆者のものであり、電力中央研究所又はその他機関の見解を示すものではない。

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