社経研DP

2023.05.22

EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)規則の解説

  • 気候変動
  • 企業・消費者行動

要約

 2023年5月17日、欧州連合(EU)において、炭素国境調整メカニズム(CBAM)を創設する規則が発効した。CBAMは、欧州排出量取引制度(EU ETS)の強化に伴う炭素リーケージ(※海外への排出流出)を防止するために、対象部門の輸入品に対して、炭素コストを課す仕組みである。本稿は、CBAM規則の内容を整理した上で、今回の制度設計から示唆されること及び日本への示唆を検討した。
 CBAMは世界初の炭素国境調整であり、EU内外に与えるインパクトが大きいことから、激変緩和、世界貿易機関(WTO)のルールとの整合性、他国への配慮といった観点から慎重に設計されている。このことは、例えば、段階的にCBAMを導入しEU ETSの無償割当を削減する、輸出還付を行わない、間接排出の適用範囲を限定する、移行期間を設定するといった点に表れている。また、欧州委員会に委任された多数の事項に関するルールメイキングが今後も継続することになっており、その中でも、炭素コストを課す体化排出量(embedded emissions)の計算方法に関する実施規則が、CBAMの負担額を左右するため、特に重要になる。
 日本にとっては、今回選ばれた対象製品(鉄鋼、アルミニウム、肥料(アンモニアを含む)、セメント、水素)のEUへの輸出量は非常に小さく、当面、直接的な影響はほとんどない。しかし、欧州委員会が、2024年末までに今回対象となった製品の川下製品(たとえば、鋼材を用いる自動車・自動車部品・産業機械)への適用拡大を、2025年末までに有機化合物・ポリマー(プラスチックを含む)への適用拡大を検討することになっており、検討結果を踏まえて適用拡大を立法する場合、日本からEUへの主要輸出品の大半がCBAMの対象となる。
 また、CBAM規則は、「原産国で実効的(effectively)に支払った炭素価格分」を輸入品に課す炭素コストから差し引くことを認めており、その炭素価格は「税・課金・料金または温室効果ガス排出量取引制度の下での排出枠」とし、還付・補償等を受けた分は差し引きを認めないとしている。日本が導入する予定の「炭素賦課金」は課金に該当し、減免・還付分以外の実際に支払った分については、差し引きが認められると考えられる。他方、「GX-ETS」は目標未達分にのみ、カーボン・クレジット等の購入を求める方式であり、全排出量に対する排出枠の納付を求めるEU ETS型の排出量取引とは、炭素価格を支払う排出量の範囲が異なっている。そのため、EU ETSの無償割当の削減が進み、EUの事業者が炭素価格を支払う排出量の範囲が拡大して、最終的には全排出量がその対象となるなかで、日本からの輸出品に対する差し引きがクレジット等の購入分に限定され、実排出量からクレジット分を引いた排出量に対して、CBAM証書の納付義務が課される可能性がある。

免責事項

本ディスカッションペーパー中、意見にかかる部分は筆者のものであり、電力中央研究所その他の機関の見解を示すものではない。

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