社経研DP

2023.05.19

欧州排出量取引の制度改革 2030年55%削減に向けたEU ETSの改正とETS IIの新規導入

  • 気候変動
  • 企業・消費者行動

要約

 欧州では、2030年の温室効果ガス排出量を1990年比で55%以上削減するための政策のひとつとして、排出量取引制度が大幅に改正され、2024年からの運用が予定されている。改正内容は、発電所や産業部門の大規模排出源および航空機を対象とするEU ETSの制度変更、燃料供給を規制ポイントとする新たな排出量取引制度(ETS II)の導入、および、オークション収入の活用に関する変更に大別できる。本稿では、これらの詳細を解説する。
 まず、EU ETSに対して、排出削減目標の強化、海上輸送への対象拡大、市場安定化措置の強化、および無償割当規則の修正が行われた。削減目標では、改正前の年2.2%の削減率を、2024年からは4.3%、2028年からは4.4%に引き上げるとともに、2024年・26年にそれぞれ追加的な削減を行い、2030年までに2005年比62%の削減を目指す。また、海上輸送は2024年から段階的に制度対象に加わる。そして、市場価格安定化のためのリザーブ(MSR)の運用方法を見直すことで、排出枠の市中供給量の不確定要素を取り除く。さらに、炭素リーケージ対策の炭素国境調整(CBAM)への移行に伴い、一部のエネルギー多消費産業に与えていた無償割当を段階的に廃止する。
 次に、EU ETSとは別に、新たな制度として道路輸送と建物暖房、およびEU ETSの対象外の産業部門で消費される燃料を対象とするETS IIが、2027年から導入される。直接排出を対象としていたEU ETSと異なり、ETS IIでは燃料供給事業者が直接の規制対象(規制ポイント)となり、排出枠は全量がオークションによって有償で配布される。また、価格安定化を図るため、MSRの機能がEU ETSより強化される。
 最後に、オークション収入の活用に関して、今後はオークション収入の全額が気候変動目的に支出される。このほか、イノベーション基金を増額して対象分野の脱炭素化を進めること、および、新たに社会気候基金を設立して低所得世帯、零細企業および交通弱者の公正な移行を支援するなど、基金を通じた脱炭素支援の規模や用途を拡大する。

免責事項

本ディスカッションペーパー中、意見にかかる部分は筆者のものであり、電力中央研究所その他の機関の見解を示すものではない。

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